日本の農業地帯で水域ネットワークの一部をなす小河川は、フナ類やドジョウなど私たちに馴染み深い淡水魚の生息地であるが、保全分野や行政の関心は高くなく、生物相の報告は少ない。そこで、茨城県の霞ヶ浦に注ぐ中規模河川である恋瀬川の 3支流(川又川・小川・宇治会川)に計 30箇所の調査地点を設け、電気ショッカーによる魚類採捕調査と水深や流速、植生被度などの環境調査を 2010年から 2011年にかけての冬・春・夏・秋に各 1回行った。延べ 119回の捕獲調査によって 18種、 27,086尾の魚類を捕獲した。このうちタイリクバラタナゴは国外外来種、タモロコ、カワムツ属が国内外来種だった。一方、スナヤツメ、ギバチ、ミナミメダカ、ヤリタナゴ、ドジョウ、カジカの 6種が環境省(2020)のレッドリスト掲載種であった。川又川には一年中高さが変わらない固定堰が 4個と灌漑期のみ水をせき止める可動堰が 5個、小川には可動堰 2個、宇治会川には固定堰 8個と可動堰 1個があった。堰の密度・コンクリート底面の比率・植生被度のいずれの指標からも自然度は小川でもっとも高く、宇治会川でもっとも低かった。調査当たりの種数と調査地点当たりの多様度指数は、小川でもっとも高く、宇治会川でもっとも低かった。調査地点の下流側直近に堰がある場合にはない場合と比べてオイカワ、タモロコ、ギバチ、モツゴの捕獲個体数および種数が少なく、その差は、特に固定堰との間で顕著であった。本研究の結果は、河川横断人工構造物、特に年間を通して落差が維持される固定堰は、平野部小河川に生息する多くの淡水魚に負の影響を与えることを示唆している。堰上げによって河川水を灌漑に利用する場合には、例えば、落差の小さな可動堰とするなど淡水魚への影響を小さくする対策を講じることが望ましい。
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