保全生態学研究
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早期公開論文
早期公開論文の18件中1~18を表示しています
  • 川瀬 誉博, 白澤 大樹, 大西 雄二, 山中 寿朗, 山本 智子
    論文ID: 1905
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    マングローブ植物は熱帯・亜熱帯の河口汽水域に生育する耐塩性の種子植物であり、鳥類や昆虫類、魚類や底生動物など、陸上と海洋双方の生物とともにマングローブ林を形成している。マングローブ植物はこの生態系において、生息場所提供者と生産者という主要な役割を果たしているが、底生動物もまた、食物連鎖を通して生態系を支えている。人為的あるいは自然分布によって温帯域で見られるマングローブ林では、熱帯・亜熱帯とは底生動物相が異なっていることから、マングローブ植物や底生動物の機能が異なっている可能性がある。そこで本研究では、 17世紀に移植され、分布のほぼ北限に位置する鹿児島市の喜入マングローブ林において、底生動物の食物網構造について安定同位体比を用いて明らかにするとともに、天然分布である奄美大島の住用マングローブ林と比較を行った。前者は 2016年 1月に寒波の影響によって一斉落葉しており、林床上の環境が激変したと想定されるため、落葉前後の林内環境と食物網構造の比較も行った。餌資源となる有機物の候補として、マングローブの落葉、海藻、底質を採集した。消費者は住用と比較できるように、腹足類や甲殻類などを採集し、炭素・窒素・硫黄の安定同位体比( δ13C・δ15N・ δ34S値)を測定した。消費者の安定同位体比から、住用マングローブ林では落葉由来の有機物を利用しているのに対し、喜入では海藻などといった海由来の有機物が底生低次食物網を支えていると考えられた。寒波による一斉落葉の影響として、林内の光量子量の増加と、ハクセンシオマネキの林内への分布拡大が認められた。一方、林内の食物網構造に変化は認められなかった。以上の結果から、喜入マングローブ林では、マングローブ植物は生息場所提供者ではあるが底生食物網の生産者としての寄与は小さいと考えられた。

  • 佐藤 夕夏, 赤坂 卓美, 藪原 佑樹, 風間 健太郎, 河口 洋一
    論文ID: 1928
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    洋上風力発電は陸上風力発電よりも極めて大きな発電量を持つことから、近年気候変動問題の緩和策として最も有力視されている再生可能エネルギーのひとつである。その一方で、風車への海鳥の衝突等、野生動物への影響も懸念されている。このため、海鳥の生息に配慮した風力発電事業計画のための実用的なセンシティビティマップが求められるが、多くの国で作成されていない。本研究は、海鳥類への影響を最小限にとどめることを目的に、オオセグロカモメ Larus schistisagusをケーススタディとし、本種の生息場選択に関わる要因を明らかにし、センシティビティマップを作成した。 2018年 6-8月に、北海道道東地方に生息するオオセグロカモメ 6個体に GPSロガーを装着し 5分間隔で利用場所を特定した。オオセグロカモメの利用頻度は海水面温度、クロロフィル a、および営巣地からの距離が関係しており、海水面温度やクロロフィル aの上昇に伴い増加し、営巣地からの距離に応じて減少した。しかし、営巣地からの距離が 25 kmを越えた辺りからは横ばいとなった。これらの結果を用いてセンシティビティマップを作成したところ、営巣地に近接した海域だけでなく、遠方であっても潜在的に餌資源量が多い海域であれば、本種が風車に衝突する可能性が高くなることが示唆された。国内での洋上風力発電事業が計画されつつある今日では、本研究で示された手順で緊急にセンシティビティマップを作成し、事前の開発地選択に活用する必要がある。

  • 佐橋 玄記, 丸山 緑, 有賀 望, 森田 健太郎, 岡本 康寿, 向井 徹, 水本 寛基, 植田 和俊, 藤井 和也, 渡辺 恵三, 大熊 ...
    論文ID: 1930
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    市民参加型の調査の中でも近年特に増えているのが、位置情報を付与した生物のデジタル写真を市民から集める取組みである。この取組みでは、投稿写真を基に専門家が種同定を行うことができるため、生物に詳しくない市民でも気軽に参加できることに加え、専門家だけでは把握の難しい、広域かつ詳細な生物分布情報が得られる。一方で、市民が投稿する写真データにどのような特徴が存在するのか、その客観的評価が行われている事例は少ない。札幌ワイルドサーモンプロジェクト( SWSP)で実施した「みんなでサケさがそ!」という企画においても市民投稿写真を基に広域生物分布データの収集を行ったが、この中には専門家によるデータも多く含まれていた。そこで、本研究では「みんなでサケさがそ!」に集まった市民と専門家の 4年分のデータを解析し、両者間で被写体と撮影場所、撮影時期にどのような違いがあるか、比較検討を行った。解析の結果、被写体に応じた統計的に有意な違いは検出されなかった。一方、市民の投稿写真は専門家の写真に比べ、撮影しやすい橋周辺に集中する傾向が見られた。更に専門家の撮影時期がサケ科魚類の遡上初期や終期を含め網羅的であったのに対し、市民は撮影時期が遡上最盛期に集中していた。今後は市民と専門家のデータの間に異なる傾向が生じうることを念頭に、市民から得られたビッグデータをどのように補正・取捨選択すれば、実際の研究や保全戦略に最大限活用できるのか、考えていく必要があるだろう。

  • 門脇 浩明, 山道 真人, 深野 祐也, 石塚 航, 三村 真紀子, 西廣 淳, 横溝 裕行, 内海 俊介
    論文ID: 1933
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    近年、生物の進化が集団サイズの変化と同じ時間スケールで生じ、遺伝子頻度と個体数が相互作用しながら変動することが明らかになってきた。生物多様性の損失の多くは、生物の進化速度が環境変化の速度に追いつけないことにより引き起こされるため、生物の絶滅リスクを評価する上で進化の理解は必須となる。特に近年では、気候変動・生息地断片化・外来種などの人間活動に関連する環境変化が一層深刻さを増しており、それらの変化に伴う進化を理解・予測する必要性が高まっている。しかし、進化生態学と保全生態学のきわめて深い関係性は十分に認識されていないように感じられる。本稿では、進化の基本となるプロセスについて述べた後、気候変動・生息地断片化・外来種という問題に直面した際に、保全生態学において進化的視点を考慮することの重要性を提示する。さらに、進化を考慮した具体的な生物多様性保全や生態系管理の方法をまとめ、今後の展望を議論する。

  • 渡辺 伸一, 吉川 颯, 東川 洸二郎, 森信 敏, 惣路 紀通
    論文ID: 2003
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    カブトガニ Tachypleus tridentatusは、東アジアの沿岸域に棲む節足動物の一種である。世界各地で減少傾向にあり、国際保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種に位置付けられ、国際的にその保全対策が求められている。岡山県笠岡市では、カブトガニの保護増殖事業の一環として、人工飼育したカブトガニ幼生を笠岡市神島水道内の干潟へ放流する試みが行われてきた。カブトガニ幼生の放流事業は、世界各地で広がりつつあるが、その効果と課題については十分に検証されていない。本研究では、カブトガニ幼生を放流した干潟で、体幅組成から脱皮齢段階の成長を推定し、飼育個体の結果と比較した。干潟個体の体幅組成を分析した結果、孵化後 5年目までの幼生( 3-9脱皮齢)であることが推測された。また、飼育個体の体幅は、すべての齢段階で干潟個体より小さかった。先行研究と比較した結果、干潟個体の体幅は他地域の干潟で推定した体幅と同程度だったが、飼育個体の体幅は小さく、特に 6脱皮齢以降で干潟個体との差は大きかった。これらの成長の相違は、低質な給餌条件や過密な飼育環境による影響などが考えられた。よって、野外へ幼生放流を行う場合には、長期飼育を避けて、早期の放流を行うことが有効と考えられる。また、現在の野生個体群が徐々に回復傾向にあることから、今後は、笠岡沿岸で自然産卵するカブトガニを増やし、人工放流に頼らずに、持続可能な野生個体群を維持するための保全対策が求められる。

  • 角野 康郎
    論文ID: 2004
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開
    電子付録

    湧水域は特有の環境と生物相を有し、生物多様性保全の観点からも重要な湿地である。近年、外来水生植物の湧水域への侵入と分布拡大の事例が報告され、生態系被害が危惧されている。本調査では、日本の湧水域における外来水生植物の侵入と定着の実態を明らかにすることを目的に、北海道、東北地方南部、南九州をのぞく全国 26都府県の湧水河川ならびに湧泉 201カ所を調査した。そのうち維管束植物が生育していたのは 165地点で、沈水形で生育していた陸生植物も含め 69種が記録された。この結果に基づき、在来種も含め、湧水域における水生植物相の特徴を考察した。外来種は 20種が 114地点から確認され、我が国の湧水域に広く侵入・定着している実態が明らかになった。オランダガラシ(広義)、オオカワヂシャ、コカナダモが多くの地点で確認されたほか、イケノミズハコベ、オオカナダモ、キショウブが 10カ所以上の地点で確認された。これら外来水生植物の生態リスクには湧水特有の環境が関係していることを論じるとともに、今後の課題について考察した。

  • 村上 裕, 久松 定智, 武智 礼央, 黒河 由佳, 松井 宏光
    論文ID: 2005
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    二次的自然としての水田やため池を繁殖場所として利用するトンボ類は、水稲の生育ステージや、ため池の植生、水位管理、周辺環境等が種個体群の存続を許容するものであったことから、水田面積の拡大とそれに伴うため池の造成により安定的な分布域を形成したものと考えられる。本研究は、ため池の水際を主な産卵場所として利用し、冬期に減水したため池の乾出した底質で卵が越冬する可能性を指摘されてきたオオキトンボを対象種とし、ため池の水位管理方針が幼虫発生に与える影響を研究した。現地調査として、本種の産卵行動が例年確認されているため池から無作為に抽出した 3地点で成熟個体および羽化後の未成熟個体のラインセンサスを行ったほか、ため池管理者へ水位管理に関する聞き取り調査を行った。また、ため池の満水位直下の砂礫を採集し、乾燥状態で管理後に翌春湛水して孵化した幼虫数を計測した。調査の結果、冬期に大きく減水したため池の干出した砂礫から多くの幼虫が発生した。ただし、他の池と同等の成熟個体が飛来し、産卵行動が確認され、冬期に減水していたにも関わらず孵化幼虫が認められないため池も存在した。

  • 大澤 剛士, 加藤 和紀, 辻本 明
    論文ID: 2007
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    一度侵入・定着してしまった外来生物を根絶、あるいは生態系等へ影響がほとんどなくなる水準まで低密度化することは、困難ではあるものの、科学的根拠に基づいた駆除方策を一定の強度をかけて継続的に実施することで、実現可能な目標になりうる。実際、近年では外来生物の根絶あるいは個体密度を著しく低下させることに成功したという報告も徐々に出てきている。神奈川県足柄下郡箱根町では、特定外来生物であるオオハンゴンソウの駆除活動を 10年以上にわたって継続した結果、駆除活動を開始した 2006年には町内各地に繁茂していた本種を、 2019年現在では発見が困難になるほどに減少させることに成功した。本稿は、箱根町におけるオオハンゴンソウ駆除活動の内容と駆除成果の記録に基づき、個体数が著しく減少するに至るまでの過程および、継続的な駆除活動が行われる上で重要と考えられる要因を議論することで、他地域における参考情報を提供することを目的とする。

  • 曲渕 詩織, 山ノ内 崇志, 黒沢 高秀
    論文ID: 2009
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    東北地方太平洋岸域の海岸林は東日本大震災で大きな被害を受け、現在、かつてない規模で山砂の搬入と盛土を伴う海岸防災林再生事業が進められている。生物多様性の劣化が懸念されるが、復旧事業直後の生物多様性に関する研究は乏しい。本研究では松川浦に面した砂洲である福島県相馬市磯部大洲において、施工直後の生育基盤盛土上の植物相と植生を調査した。造成完了から 3年以内で、植樹した翌年の生育基盤盛土上は、植被率が低く裸地に近い相観で、出現率が高かった植物の多くは一般に二次遷移の初期に出現するとされる夏緑性一年草や夏緑性多年草であった。木本は少なく高木性種はクロマツだけであり、海岸生植物は 3種類で被度も低かった。帰化植物は侵略的外来生物を含め 23種類(帰化率約 40%)であったが、被度は低かった。出現した維管束植物 58種類には震災前から林内や路傍で確認されていた種類が多く、生育基盤盛土の材料は砂岩由来で散布体に乏しいと推測されることから、これらは近隣から侵入したものが多いと思われた。本研究の対象地は限られたものであり、広大な復旧事業地の全域にわたる生物多様性の研究と知見の集積が望まれる。

  • 鎌田 泰斗, 清水 瑛人, 佐藤 雄大, 関島 恒夫
    論文ID: 2016
    発行日: 2020/11/10
    [早期公開] 公開日: 2020/11/10
    ジャーナル フリー 早期公開

    殺虫剤は農業において不可欠であるが、人体や標的外の野生生物に多大な影響を及ぼすことが絶えず問題視されている。カエル類の多くは、産卵期から幼生期にかけて水田に依存しており、その時期が水稲栽培における殺虫剤の施用時期と重複していることから、潜在的に暴露リスクを抱えている生物種といえる。殺虫剤の暴露をうける発生初期は、生体内のあらゆる器官が形成される発生ステージであり、その時期における殺虫剤による生体機能の攪乱は、その後の生存に重篤な影響を及ぼす可能性が高い。本研究では、水田棲カエル類のニホンアマガエルとヤマアカガエルを指標生物とし、両種の初期発生過程における、ネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジン、ネライストキシン系殺虫剤カルタップ、およびジアミド系殺虫剤クロラントラニリプロールの 3種の殺虫剤が及ぼす発生毒性を、暴露試験を通じて検証し、種間による感受性の差異および殺虫剤原体と製剤間における影響の差異を明らかにした。ニホンアマガエルおよびヤマアカガエル両種に共通して、カルタップ暴露により奇形率および死亡率の増加が認められた。一方で、クロチアニジンおよびクロラントラニリプロールにおいては、催奇形性は認められなかった。カルタップ原体に対する感受性には種差が認められ、ヤマアガエルにおいては、 0.2 mg/Lで奇形率および死亡率が増加したのに対し、ニホンアマガエルにおいては、 0.02 mg/Lで奇形率および死亡率が増加した。発症した奇形パターンは、ニホンアマガエルとヤマアカガエルに共通して、脊椎褶曲と水腫が見られ、ニホンアマガエルでのみ脱色が認められた。また、カルタップ製剤処理群においては、原体処理群と比較して、脊椎褶曲の発症率は高く、水腫の発症率は低かった。本研究では、カルタップの分解物であるネライストキシンが水田棲のカエル類、特にニホンアマガエルの初期発生に深刻な影響を与えていることが示唆された。さらに、生存率の低下につながると考えられる脊椎褶曲や脱色が、カルタップの施用基準濃度において発生している可能性が考えられた。

  • 畦地 啓太
    論文ID: 1920
    発行日: 2020/08/31
    [早期公開] 公開日: 2020/08/31
    ジャーナル フリー 早期公開

    2018年 3月の第 65回日本生態学会大会において開催されたシンポジウム「鳥衝突を未然に防ぐセンシティビティマップの普及に向けて」にコメンテーターとして参加したことを踏まえ、事業者の観点からセンシティビティマップの普及について 3つの課題を述べる。第一は、マップの理解のしやすさついてである。具体的には、シンポジウムにおいても、 MaxEnt等のモデルを用いたメッシュで示されるマップが紹介されていたが、このようなマップは作成したモデルを用いた外挿により広範なマップが作成可能であるというメリットがある一方で、結果に影響を与える変数が多く、事業者を含む利害関係者にとってはより理解がしにくい(ひいては理解を得にくい)。単純なマップの例としてドイツの事例を説明した。第二に、マップの細かさ(メッシュの細かさ)について述べる。事業者が初期段階で実施する立地選定においては 100~ 200 m単位で判断をしている一方で、従来から公開されているイヌワシ・クマタカの生息分布マップは 10 kmメッシュで示されており、両者に大きな差がある。マップ普及のためには事業者が立地選定で取り扱う空間スケールと同様の細かい解像度のマップ作成することが必要である。第三に、マップを利用することによる事業者へのインセンティブとディスインセンティブを如何に明示するか、という点を述べる。具体的には、リスクが低いエリア(鳥類の観点からみた適地)に立地する風力発電事業に対してどのようなインセンティブを、リスクが高いエリア(鳥類の観点から見た不適地)に立地する風力発電事業に対してどのようなディスインセンティブを、それぞれどのように設定するかという課題がある。

  • 海老原 健吾, 安川 雅紀, 永井 美穂子, 喜連川 優, 鷲谷 いづみ
    論文ID: 1929
    発行日: 2020/08/31
    [早期公開] 公開日: 2020/08/31
    ジャーナル フリー 早期公開
    電子付録

    ヒトが優占する年代であるアンスロポセン( Anthropocene)の複合的環境改変がもたらす生物多様性・生態系変化の監視においては、共生的生物間相互作用ネットワーク(共生ネットワーク)のモニタリングが重要であると考えられる。本研究では、市民科学プログラムによって東京のチョウと植物の共生ネットワークをモニタリングする可能性を、すでに収集されたデータの分析によって検討した。用いたデータは、生活協同組合「パルシステム東京」および保全生態学(中央大学理工学部)ならびに情報工学(東京大学生産技術研究所)の研究室が協働で進めている市民科学プログラム「市民参加の生き物モニタリング調査」により公開されているものである。 2015-2017年に報告された利用可能なチョウの写真データのうち、訪花もしくは樹液吸汁の対象植物の同定が可能なデータ( 4,401件)を用いて、チョウと植物の共生ネットワークを階層型クラスタリングとネットワーク図化によって分析した。チョウは利用植物群の類似性から 6グループに分けられ、そのうち 4グループは特定の植物グループ利用のギルド、残りの 2つのうち一方はジェネラリストの範疇に入る植物利用を特徴とするグループであり、他はそれらに含まれない植物との関係がいっそう多様な種を含むグループであると解釈できた。市民科学プログラムによるモニタリングの可能性が確認され、今後のモニタリングのベースラインとなるネットワーク情報が整理された。

  • 須藤 明子
    論文ID: 1931
    発行日: 2020/08/31
    [早期公開] 公開日: 2020/08/31
    ジャーナル フリー 早期公開

    カワウ Phalacrocorax carboは、全国の河川や湖沼など幅広く水域に生息する魚食性の大型水鳥である。 1970年代には絶滅の危機にあったが、現在は個体数と分布が回復し、採食地における内水面漁業被害、ねぐら・コロニーにおける森林被害や生活被害など、人間活動との軋轢が生じている。 市町村等で対応可能な採食地での被害対策と異なり、ねぐら・コロニーでの対策は、無計画に実施すると、守りたい場所にねぐらやコロニーが移動してしまうなど、かえって被害が深刻化する場合があるため、慎重な対策が求められる。日常の行動圏サイズから、カワウのねぐら・コロニーの分布管理は都府県等が適当であるが、個体群管理の観点からは幼鳥の分散や季節移動等により数百 kmスケールの広域連携が必要不可欠であり、環境省カワウ広域協議会と関西広域連合による広域管理が進められている。 滋賀県は、シャープシューティング体制による科学的計画的捕獲の導入と関係者の連携・協力によって、 7万羽を超えるカワウを 1万羽以下まで減らすことに成功したが、現在は県内全域を俯瞰したねぐら・コロニーの分布管理という新しい課題に対峙している。この課題解決の糸口として、個別のねぐら・コロニーを対象に、県より小さく市町より大きい水系単位での議論の場が設定され、生息数の適正化を定めた県の第二種特定鳥獣管理計画に則した被害対策が検討されている。さらに、県における水産部局と環境部局の効果的な連携が、この議論の適切なハンドリングを可能にしている。 カワウでは、管理計画を持つ都道府県が少ない。それは、主な被害が内水面漁業被害であって、通常は鳥獣管理を所管しない水産部局が担当していること、さらに水産と環境(鳥獣管理を所管する)との部局間連携が進んでいない場合も多いことが影響している。一方、都道府県および市町村の鳥獣、水産等の関係行政の担当者を対象として実施されている環境省主催のカワウ管理に関する研修会や勉強会により、管理のビジョンを語ることのできるカワウ担当者が育成されており、今後は管理計画の策定が進むと考えられる。 魚道整備などの河川環境の自然再生によって流域の生態系サービスを向上させることで魚類を豊かにし、カワウの食物資源と漁業者の水産資源をともに確保してカワウ管理が目指しているゴール「人とカワウの共存」に近づくことを期待したい。

  • 稲富 佳洋, 上野 真由美
    論文ID: 1909
    発行日: 2020/03/05
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー 早期公開

    野生鳥獣は複数の行政単位にまたがって分布することが多いため、従来の都道府県単位や市町村単位という枠組みだけで管理ユニットを形成しても対処しきれないことがある。このような生物境界と行政界のミスマッチを解消するための一つの方法として、複数の都道府県や市町村による広域的な管理が必要とされている。しかし、空間的に広い範囲を一括りにする広域枠を設定するだけで、管理ユニットと行政単位のギャップは埋まるのだろうか。本特集では「鳥獣保護管理法」の対象種だけではなく、陸水系の様々な生物種の管理事例を報告することによって、生物境界と行政界のミスマッチを解決するために必要とされる管理ユニットのあり方について検討した。本特集が、日本各地で問題となっている野生生物の管理ユニットと行政単位のギャップを埋めることに貢献し、日本各地における野生生物管理を成功させる一助となれば幸いである。

  • 上野 真由美
    論文ID: 1911
    発行日: 2020/03/05
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー 早期公開

    ニホンジカの管理に関する問題の一つは、管理にかかわる計画と実行が、二つの法と行政の系列にまたがって支配されていることである。環境省の管理下にある「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」は、主に都道府県によるニホンジカ管理計画の策定に関与しながらも対策に係る予算は限定的である一方、農林水産省の下での「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」においては、市町村等が行う総合的対策(捕獲、侵入防止策、担い手の育成、調査等)を対象とする財政措置がひかれている。両法の究極的目標は、鳥獣と社会の軋轢を軽減するという点で一致しており、縦断的(県と市町村)および部局間(農林業と環境)の連携が必要である。北海道のエゾシカ管理のように鳥獣管理の主管を環境部局が担う場合には、これら 2つの法律が異なる部局(環境部局・農業部局)の管轄に分かれ、農業部局から財政措置が施される市町村のエゾシカ対策に環境部局が直接関与することは簡単ではない。さらに本州と違う点として、北海道が本州以南の 15都府県に相当する大きさであることから、(総合)振興局が本州以南の県に相当し、市町村と北海道を結ぶ縦断的階層の中間的役割を担う点が挙げられる。このような点に関する学問的な論文は存在するが行政的な解決策は示されておらず、縦割りへの具体的な対応方法の経験とアイデアの共有は現場にとって重要である。本事例では鳥獣管理の統括的な体制を築くために、実験的に振興局単位での会議を企画し、関連部門(農林業と環境)の複数階層(県から市町村)の担当者を参集した。行政に限定した会議構成員であったことから、予算執行における自治体の悩みなど、行政的な課題をより深く意見交換することができた。このように環境が主管である都道府県の場合には、計画と実行のずれを自覚し、縦断的かつ横断的連携を築いていく仕組みが必要だと考える。

  • 松田 裕之, 竹本 裕太, 田中 貴大, 森 宙久
    論文ID: 1912
    発行日: 2020/03/05
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー 早期公開

    クロマグロ Thunnus orientalisは、近年大きく資源が減った国際資源として国際的に厳しい漁獲枠制限が課され、国内においてまき網や沿岸漁業などへの漁獲枠が割当てられている。その割当ての根拠が不明確であり、かつ一部地域の定置網漁業で枠を大幅に超過していることが社会問題となっている。変動するクロマグロ資源の漁獲枠の配分方法を精査し、確立する前に割当て配分が決まった。本稿では、厳しい漁獲枠の総量規制の根拠と、国内の配分枠の決まり方とその問題点、今後の展望について論じる。現状のクロマグロの資源量が過去の資源量に対して激減していることは国際合意である。 2015-16年生まれの加入量が多いことから、 2017年に日本も合意した。現状の変動するクロマグロ資源の国内の捕獲枠の配分方法が不明確である。全体の漁獲金額を増やす合理的な配分方法として、低水準期に沿岸を優先し、高水準期には沖合に多く配分する方法が考えられる。そこで、現在用いられている産卵親魚量より合理的な繁殖ポテンシャルという資源量の指標を提案する。理論的には、捕獲枠の再配分を認めることで、総枠を守りつつ、有効に利用することができる。

  • 山村 光司
    論文ID: 1913
    発行日: 2020/03/05
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
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    2009年にウメ輪紋病がわが国で初めて発見され、農林水産省はそれに対する緊急防除を直ちに開始した。この病気はアブラムシによって媒介されるウイルス病であり、病徴が顕在化するまでに 3年程度の潜伏期を要するとされている。このウイルスを根絶するためには病気に感染した樹を完全に排除してゆく必要があるが、そのためには、病徴が確認された樹だけでなく、潜伏期の可能性がある周辺の宿主(病気に感染しうる樹)についても、伐採や移動禁止措置を行う必要がある。 2013年以降のウメ輪紋病の緊急防除において半経験的に用いられてきた防除範囲の半径は 500 mであった。アブラムシの非ランダム拡散を考慮したガンマモデルを用い、感染樹が発見された時点(3年後)における周辺の感染確率を推定したところ、 500 m地点における感染確率は 0.5%程度と推定され、この防除範囲の設定は妥当であったことが示唆された。また、防除範囲内の病樹を完全に伐採する場合に、病気の基本再生産数を 1以下に保つのに必要な半径は 607 mと推定された。今後にウメ輪紋病の「低発生地域」を構築する際にも、「周辺地区」として 500 m幅のバッファーゾーンを設ければ、「中心地区」を清浄に保つことができると期待される。

  • 梶 光一
    論文ID: 1917
    発行日: 2020/03/05
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー 早期公開

    野生生物の被害防除や管理には、生物学的な範囲に基づく管理範囲とそれに対応する適切な行政組織の対応が求められるが、対象とする空間スケールが拡大するにつれて、根拠法令と関わる行政組織が増加して管理の仕組みが複雑となる。ウメ輪紋病は根絶すべき対象であり、その緊急防除範囲は半径 500 mであり、国と県の役割は明確で管理ユニットと行政単位のギャップは少ない。クロマグロは大きく資源が減った国際資源であり、国際機関によって決定された国内枠を沿岸と沖合いに割り当てている。その合理的な再配分方法の検討は開始されたばかりであるが、管理の範囲と実施する行政組織の対応は明確である。これらに対し、野生鳥獣(カワウ、ニホンジカ)は、市町村、都道府県、複数の県にまたがって分布しており、市町村が実施する有害捕獲および都道府県が実施する個体数調整によって捕獲が実施されているが、管理対象範囲が不明確であり、都道府県と市町村で捕獲数の割当についての明確なルールもなく、役割分担があいまいであり、管理対象範囲と対応する行政組織にギャップが生じている。このギャップを解決するために、補完性原則にもとづいて、市町村の有害捕獲(駆除)を最優先し、都道府県は市町村との連携のもとで個体数調整を広域に実施する必要がある。

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