保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
早期公開論文
早期公開論文の12件中1~12を表示しています
  • 丑丸 敦史
    論文ID: 2403
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/04/10
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開
  • 山口 沙耶, 角谷 栄政, 上野 真由美
    論文ID: 2310
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要旨:特定外来生物に指定されているアライグマ Procyon lotor は、生態系被害や農業被害が全国各地で問題となっており、被害低減を目指した捕獲が行われている。外来生物法に基づく捕獲であっても捕獲の動機は農業被害防止であることが多い。自治体職員には地域の捕獲対策を主導する役割が求められるが、これまでに市町村主導でアライグマを低密度化させた事例は限られている。従って本研究では、外来生物法や鳥獣保護管理法などの既存制度下で行われた捕獲強化対策の効果を評価することで、市町村の担当職員ができる外来種対策の改善の可能性について検討することを目的とした。2019年度から3年間、アライグマの捕獲強化対策が実施された北海道新十津川町を対象に、町で収集されたアライグマの捕獲数やわなかけ日数、捕獲個体の雌雄内訳を整理したところ、捕獲数やわなかけ日数は2019年度以降大きく増加し、2019年度以降の町内のアライグマの生息密度指標(CPUE)は年々減少、2021年度末時点での推定生息頭数は0.840 頭/km2だった。また捕獲強化対策の内容を整理したところ、交付金を活用した捕獲報奨金の導入や貸し出し用箱わなの増量といった捕獲環境の整備、町内のアライグマの生息状況に関する担当職員による調査と防除従事者への働きかけ、町の取り組み等に関する積極的な広報といった3つの活動が行われていた。わなかけ日数の増加には、交付金の導入による貸し出し用箱わなの増量や捕獲報奨金の導入による貸し出し用箱わなの申請者数の増加が寄与していると考えられた。また数値的根拠は明確に得られなかったが、広報による普及啓発にも一定効果があると考えられた。以上のことから、ヒト・モノ・カネ・情報といった町の対策資源を充実させることで地域の個体数を抑制するような強力な捕獲対策になりうることが示された。農業被害防止としての捕獲は、外来種対策全体の一部にすぎない。しかし、本事例のように、自治体の対策資源が充実化すれば地域の捕獲活動を活発化させることができ、根絶への道筋に一定程度貢献することが可能だと考える。今後対策事例の蓄積や共有を進めることで、各自治体が実情に応じた捕獲強化対策を図ることが期待される。

  • 渡邉 彩音, 北村 俊平, 半谷 吾郎, 中川 弥智子
    論文ID: 2316
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要 約:霊長類や大型鳥類は、大型の種子や果実を持つ植物の唯一の種子散布者となり得るだけでなく、様々な植物の種子散布者となるため、人為攪乱によって大型動物が絶滅した空洞化した森林では、種子散布機能の崩壊が懸念されてきた。国内でも、ヤマモモの主要な種子散布者であるニホンザルが絶滅した種子島では、現在もニホンザルが生息する屋久島と比較して、ヤマモモの種子散布量が激減していることが報告されている。しかし、屋久島や種子島に生息するニホンジカや森林性野ネズミなどの地上性動物による二次散布については未だ明らかにされていない。本研究では、屋久島と種子島において、地上性動物によるヤマモモ果実・種子の利用の有無とその消費者を明らかにし、地上性動物による二次散布の可能性を検討することを目的とした。2022年と2023年の6月に、屋久島と種子島の各調査地で10地点に自動撮影カメラを設置し、実験的に設置したヤマモモ果実を訪れる動物種とその頻度を記録した。また、動画内で果実を食べているか、くわえている様子が確認できる個体は採食個体としてカウントし、採食果実数とともに記録した。その結果、屋久島では7種、種子島では10種の動物が観察され、ヤマモモ果実の採食が認められたのは、ニホンザル、ニホンジカ、ネズミ類(アカネズミ属)、タヌキ、ハシブトガラスの5種で、特に全体に占める割合が高かったのはニホンジカとアカネズミ属であった。ニホンジカはその摂食方法や糞粒のサイズから、ヤマモモ果実を種子ごと噛み砕いていると考えられ、ヤマモモ種子の二次散布に貢献している可能性は低いと考えられた。一方でアカネズミ属は、果肉やその中の種子をその場で食べるだけでなく、果実をくわえて持ち去る様子も確認されたことから、ヤマモモ種子を貯食していると考えられる。したがって、アカネズミ属は、特にニホンザルが不在の種子島で、ヤマモモ種子の二次散布者として重要な役割を果たしている可能性がある。今後、アカネズミ属の二次散布者としての役割を明らかにするためには、種子散布量、種子散布距離、散布された種子の生残率・発芽率などを総合的に評価していく必要がある。

  • 本城 正憲, 北本 尚子, 間野 隆裕
    論文ID: 2319
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要約:岩手県滝沢市・盛岡市を流れる木賊川では現在河川改修が進行している。その影響緩和を目的として、絶滅が危惧されるサクラソウの分布調査や工事区画由来の株の自生地内系統保存が行われている。当地のサクラソウを観察したところ、果実に穴を開けられ種子が食べられている事例が多くみられたため、これらの摂食がサクラソウ個体群の種子生産に及ぼす影響を検討した。開花した小花のうち、肥大し、かつ摂食されなかった果実の割合である健全果実率は、2020年はジェネット平均14%、2021年は18%と2割以下であった。一方、肥大した果実における被食率は、2020年はジェネット平均29%、2021年は18%であった。近隣の雫石個体群における2021年の健全果実率は40%、肥大した果実における被食率は6%であり、木賊川個体群では拮抗的な生物間相互作用である植食性昆虫による摂食の影響が相対的に顕在化している可能性が示唆された。摂食痕が見られた株を観察すると、果実内部の種子を食べている鱗翅目の幼虫や蛹が発見された。交尾器の観察により種名を同定したところトリバガ科のオダマキトリバと判明した。オダマキトリバによる摂食はジェネットや年次間で変動がみられ、その帰結として木賊川個体群のサクラソウは遺伝的多様性を保ちながら種子を生産できていると考えられた。このことから、現時点では人工授粉や袋がけによる果実保護など喫緊の保全対策を実施する段階にはないが、継続的な種子生産状況の把握が重要と考えられた。地域の生態系は、拮抗的な生物間相互作用も含めて成立しており、それらも含めて生態系を保全していくことの重要性が指摘されている。このことを踏まえると、オダマキトリバもサクラソウとともに地域の生態系の構成種の一つとして認識したうえで、環境改変が地域の生態系に及ぼす影響をモニタリングしていくことが重要であると考えられた。

  • 中濵 直之, 井鷺 裕司
    論文ID: 2328
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/04/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要 約: 近年の自然環境の悪化に伴い、多くの生物が絶滅の危機に瀕している。こうした絶滅危惧種の保全策の一つとして、生息域外保全及び野生復帰が国内外で幅広く実施されている。しかし、生息域外保全や野生復帰事業においては近交弱勢、飼育栽培環境への適応などによる集団維持の失敗のリスクがある。これらの問題に対処するために、保全遺伝学が果たす役割は非常に大きく、保全遺伝学の成果を反映させた絶滅危惧種の保全策の検討事例も増えている。そこで本稿では、これらの研究成果のさらなる応用を目的として、保全遺伝学の見地から絶滅危惧種の生息域外保全及び野生復帰活動に対する推奨事項を整理した。まず、生息域外保全や野生復帰の際にしばしば問題となる近交弱勢や飼育栽培環境への適応について述べるとともに、それらの対策のための保全遺伝学の見地からの方策、また遺伝的撹乱のリスクや野生復帰後の遺伝的多様性のモニタリングの重要性を紹介した。保全ゲノミクス (ゲノムレベルの情報を活用した生物多様性の保全研究) についてはまだ研究事例が少ないものの、近交弱勢のリスクの検証や集団動態の推定など、生物多様性保全に欠かせない知見が期待されていることを示した。

  • 中西 康介, 横溝 裕行, 林 岳彦
    論文ID: 2304
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/03/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要約:生物の野外個体群を脅かす要因を評価し、効率的な保全策を実施するためには、相関関係と因果関係を区別することは極めて重要である。しかし、保全生態学分野において、野外個体群を対象とした因果推論の枠組みによる研究はほとんどされてこなかった。本稿では、農薬による激減が疑われたアキアカネを例とし、著者らが実践してきた統合的な因果推論アプローチを解説した。1990年代後半以降、かつて全国の水田地帯で普通にみられた赤トンボの代表種、アキアカネSympetrum frequens (Selys) が各地で激減したことが報告された。その激減の主要因として疑われたのが、同時期に水稲の育苗箱施用剤として普及したネオニコチノイド系のイミダクロプリドやフェニルピラゾール系のフィプロニルなどの浸透移行性殺虫剤である。これらの殺虫剤は、室内毒性試験や模擬水田実験などによって、標的害虫以外のトンボ類の幼虫やその他の様々な無脊椎動物に対して強い毒性を示すことが明らかになってきたため、アキアカネの個体群減少との強い関連が指摘された。しかし、激減期の個体数や諸要因を記録したデータは限定的であり、これまで殺虫剤とアキアカネの個体群減少との因果関係は体系的に分析されてこなかった。そこで著者らは、(1)既存の知見の整理による因果性のレビュー、(2)殺虫剤の出荷量とアキアカネのモニタリングデータを用いた統計的因果推論、(3)実水田を用いた野外実験による殺虫剤影響のパラメータ取得、(4)殺虫剤以外の潜在的要因としての温暖化影響の評価、(5)個体群モデルを用いたシミュレーションによる諸要因の寄与度の評価、という5つのアプローチにより殺虫剤の因果的影響を統合的に分析した。その結果、1990年代後半以降のアキアカネの激減は、毒性の強い殺虫剤の使用と、圃場整備による乾田化の複合的な影響によって生じたことが示された。

  • 天野 達也
    論文ID: 2306
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/03/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要約:生物多様性保全において科学的根拠を利用する「エビデンスに基づく保全」の重要性が近年益々認識されている。生物多様性に対する脅威となる要因の影響や、保全活動の効果を評価することは、保全のために重要なエビデンスとなるが、これらの評価を行うためには様々な研究デザインが用いられている。ランダム化比較試験やBACI (Before-After-Control-Impact)デザインなど、複雑な研究デザインの方が頑健なエビデンスを導けることはすでに知られているが、どのデザインがどれほど正確なのか、定量的な比較はあまり行われてこなかった。本稿では、脅威や保全活動が生物多様性に及ぼす影響を異なる研究デザインがどれだけ正確に推定できるのかについて、近年の研究成果を基に解説する。また、生態学や保全生物学で頑健な研究デザインがあまり利用されていない現状と、この問題がエビデンスに基づく保全を推進する上での障壁となっている問題について議論する。

  • 鈴木 健大
    論文ID: 2309
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/03/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要旨:生態系の研究では、ランダム化比較実験や、大規模なコンピュータシミュレーションなど、他分野で因果関係の解明に使われている手法が利用できないか、有効でない場合がある。一方で、生態系モニタリングにおいては、センサーネットワークによる経時的な自動観測、衛星リモートセンシング、ドローンによる環境の走査等を通して、大規模データの利用可能性が飛躍的に向上しつつある。さらに、次世代シーケンシング技術による生物群集の網羅的観測技術の発展を通して、微生物実験系が複雑な生態学的ダイナミクスの重要な研究手段となりつつある。こうしたデータ取得技術の日進月歩の向上ととともに、因果関係をデータ駆動的に解明できる手法に寄せられる期待が高まっている。2012年にGeorge Sugiharaらによって提案されたCCM(convergent cross mapping)は、生態学者が時系列による因果推定に注目するきっかけとなった。CCMは1990年代に発展したカオス時系列の研究(非線形時系列解析)を背景としている。一方で、Granger因果や情報理論によるアプローチも、動的システムの因果推定の重要な手法として発展しており、神経科学や経済学などでは早くから利用されてきた。このように、時系列の因果推定は広範な分野を背景としており、それぞれの手法を使い分けるには、その長所と短所を正しく理解する必要がある。本稿では、情報理論によって統一的な観点を導入することで、生態学的ダイナミクスを対象にしたとき、Granger因果は各要素で生じた時間局所的な情報の不均衡を、CCMはアトラクタという大局的な時間構造における情報の不均衡を扱うことを見る。このような統一的な観点から、二つの異なるアプローチの間の技術的な相補性が認識されると同時に、生態学的ダイナミクスの研究にとって因果の多面性という新しい課題が現れてくる。生態系における因果性の解明は、学問領域の垣根を超える広い視点から新しいアプローチを生み出し、現実世界の複雑さに向き合うことによって進展していくのではないだろうか。

  • 真崎 開, 富松 裕
    論文ID: 2313
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/03/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    要約:オオバナノエンレイソウは、北日本の夏緑樹林に生育する林床植物で、IUCNレッドリストにおいて絶滅危惧II類に指定されている。著者らは、岩手県と秋田県の南限個体群を対象として2013年から継続観察を実施してきたが、岩手県内の個体群周辺で近年ニホンジカが急増している。本稿では、主に2013−2022年の9年間にわたる個体群の変化に基づき、ニホンジカによる影響について検証した。岩手県内の2つの個体群では、2017年以降に被食率の上昇が見られ、赤外線内蔵カメラを用いた調査から、主な植食者はニホンジカだと考えられた。被食を受けなかった開花個体は多くが翌年も開花したのに対して、被食を受けた開花個体の半数以上は翌年に非開花の生育段階(三葉段階)へと後退した。その結果、どちらの個体群でも三葉段階の割合が2019年以降は顕著に上昇し、2022年には開花個体が3個体ずつにまで減少していた。一方、ニホンジカの増加が緩やかだと考えられる秋田県の個体群では、被食率や三葉段階の割合に目立った変化は見られなかった。岩手県では、かつて開花していた個体の多くが死亡しておらず、まだ三葉段階として残存していることから、現在はニホンジカによる影響が顕在化してきた初期段階にあると考えられる。また、エンレイソウ属はシカによる影響をいち早く受ける植物でもある。これらのことから、今後、短期間のうちに林床植生への影響が更に大きくなる可能性がある。

  • 松井 明, 大野 葵, 佐野 弘直
    論文ID: 2303
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/01/31
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開
    電子付録

    要約: ラン科植物のエビネは、ランミモグリバエによる採食および花粉媒介者であるハナバチ類の減少により、絶滅危惧の危機に瀕している。そのため、袋掛けおよび人工授粉が有効な保全対策として考えられる。福井県内の野外5調査地区において、エビネに人工授粉および袋掛けを行い、果実および完熟種子が生産される割合を比較した。2021-2022年の2年間、全供試株24個体を対象に、1) 人工授粉未処理群/袋掛け未処理群 (13個体)、2) 人工授粉処理群/袋掛け未処理群 (5個体)、3) 人工授粉処理群/袋掛け処理群 (6個体)の3パターンに分類した。その結果、果実数は、人工授粉処理群では1個体あたり平均で5.0個 (最小1個-最大9個)の果実が生産されたのに対し、人工授粉未処理群では平均で0.2個 (最小0個-最大2個)であった(Wilcoxonの順位和検定、p<0.0001)。ランミモグリバエなどのハエ類による被害率は、袋掛け処理群では平均で0% (最小0%-最大0%)ですべての果実から完熟種子が生産されたのに対し、袋掛け未処理群では平均で56% (最小0%-最大100%)であった(Wilcoxonの順位和検定、p<0.01)。以上のことから、エビネにおける人工授粉および袋掛けにより、果実および完熟種子生産に統計的に有意な効果があることが確かめられた。特に、エビネにおける授粉の機会が極めて少ないことが示唆され、今後の世代交代を考慮すると問題である。

  • 北村 立実, 久保 雄広, 松崎 慎一郎, 西 浩司, 湯澤 美由紀, 幸福 智, 菊地 心, 吉村 奈緒子, 山野 博哉, 福島 武彦
    論文ID: 2223
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/01/31
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開
    電子付録

     霞ヶ浦は流域住民のみならず広い範囲で様々な生態系サービスの恩恵を与えている。本研究では、ゾーントラベルコスト法を用いて霞ヶ浦のレクリエーション価値について経済評価を行った。全国を対象にWEBアンケート調査を実施し、霞ヶ浦(ここでは西浦および常陸利根川を対象)湖岸に点在する霞ヶ浦のレクリエーションスポット6カ所のうちいずれかに2017年の1年以内に訪れたことがあるか、霞ヶ浦の水質や生き物に関心があるかなどを質問した。訪れたと回答した人の出発地点を県外は都道府県、県内は市町村単位で設定し、霞ヶ浦の各スポットへの訪問率と旅行費用を算出した。需要曲線を作成し、訪問1人当たりの消費者余剰を算出したところ、4,087円/人と見積もられた。また、得られた消費者余剰と霞ヶ浦の年間の訪問者数の積から霞ヶ浦のレクリエーション価値を算出したところ246億円/年と見積もられた。

  • 山根 正伸, 鈴木 透, 雨宮 有
    論文ID: 2234
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/01/31
    ジャーナル オープンアクセス HTML 早期公開

    ブナハバチの葉食によるブナ高木の樹冠形状の変化を省力的にモニタリングするための技術開発の一環として、インターネット接続が困難な山岳地においてRTK非搭載のUAVで撮影した写真を用いて位置精度の良い3次元モデルとオルソ画像作成を可能とする空中写真の撮影方法とSfM処理の方法を検討した。UAVは丹沢山地の丹沢山と蛭ヶ岳の山頂一帯およそ20haの範囲において2021年と2022年の7月下旬から8月上旬の期間に、地上解像度を2cm/pixelに設定して地表面に対して概ね一定の高度で半自動で飛行させた。オーバーラップ率とサイドラップ率をそれぞれ80%以上と60%以上とした直下視往復平行写真と、カメラレンズを下向き前方20°あるいは30°に傾けオーバーラップ率とサイドラップ率をそれぞれ40%程度と30%程度とした斜め視往復写真を撮影した。準天頂衛星「みちびき」の補正信号を用いた仮想基準局と連動させた二周波GNSSを使用してPPP-RTK方式で測位したGCPと検証点をそれぞれ上空が開けた場所と登山道の階段やベンチなどの固定地物の一角に設定した。撮影した写真は、Metashape Professional(Agisoft社)により撮影方法と標定点使用の組み合わせ、SfM処理の品質を変えてカラーオルソ画像と高密度点群を作成し、樹冠の視認性と位置精度を比較した。直下視写真と斜め視写真を使用しGCP補正を組み合わせて高品質でSfM処理した場合に0.3m内外の空間座標精度があり、樹冠を識別して追跡可能な樹冠の欠損や枝の露出の視認性が良いカラーオルソ画像と3次元モデルが作成できた。この方法は、レンズキャリブレーションやGCPの配置などに課題は残されているが、単木レベルのモニタリングで経年的な比較を可能とすると考えられた。

feedback
Top