保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
外来魚の優占がイシガイ科二枚貝の繁殖に与える負の影響 : 淀川ワンド域におけるイシガイUnio douglasiae nipponensisでの事例
石田 惣久加 朋子金山 敦木邑 聡美内野 透東 真喜子波戸岡 清峰
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2010 年 15 巻 2 号 p. 265-280

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抄録
幼生期に魚類に寄生して変態するイシガイ類にとって、寄主として適合する魚種の存否は彼らの個体群維持において重要である。近年ブルーギルLepomis macrochirusとオオクチバスMicropterus salmoidesをはじめとする外来魚の密度が増大している淀川の城北ワンド域(大阪府)において、イシガイ類の繁殖への影響を推測するため、魚類相とイシガイ類のグロキディウム幼生の寄生傾向を調べた。調査地ではイシガイ、ドブガイ属Anodonta spp.、トンガリササノハガイLanceolaria grayanaの3種群のイシガイ類と、8科19種群の魚種が生息していた。ブルーギルとオオクチバスの合計個体数比率は場所により10〜64%であった。採集した魚を解剖して幼生の寄生数を調べたところ、ブルーギルとオオクチバスに寄生していたイシガイの幼生は時期により幼生全体の39〜67%、ドブガイ属では18〜96%を占めていた。ただし、ブルーギルとオオクチバスに寄生していたイシガイの幼生の約99%は魚体上でシスト(魚の上皮細胞による被覆)が形成されていなかった。一方ドブガイではほとんどの魚体上でのシスト形成率が高く、ブルーギルとオオクチバスでも約97%以上がシスト形成または変態完了していた。イシガイのブルーギルとオオクチバスに対する寄主不適合は室内実験でも裏付けられ、人為的に寄生させて得られた変態成功率はブルーギル・オオクチバスとも約0.5%で、寄生した幼生の約80%以上は魚体上で死亡すると推定された。この不適合は魚の側の獲得免疫ではなく、生得的な対寄生防御機構によるものと推測された。これらから、ブルーギル・オオクチバスの優占はイシガイの繁殖に負の影響を及ぼしていることが明らかであり、淀川のイシガイ個体群の状況を今後注視していく必要がある。本研究で示されたイシガイ類に対する外来魚の影響は、国内の他の陸水環境でも注意が必要である。
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© 2010 一般社団法人 日本生態学会

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