保全生態学研究
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調査報告
ラムサール条約登録湿地「濤沸湖」の維管束植物相
冨士田 裕子 菅野 理津田 智増井 太樹
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2018 年 23 巻 2 号 p. 279-296

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抄録

北海道の東部に位置する濤沸湖は、砂嘴の発達によって形成された海跡湖で、汽水湖でもあるため藻場や塩性湿地も発達し、オオハクチョウやヒシクイ等の渡来地として、ラムサール条約の登録湿地となっている。現在、濤沸湖は網走国定公園特別地域に指定されているが、今後の保全計画等の立案に資するため、2001-2015年に維管束植物相調査を実施した。特に2014年は季節を変えながら集中的に調査を行い、カヌーを使用した水草調査も実施した。確認した植物はさく葉標本にし、証拠標本として北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園の植物標本庫(SAPT)または岐阜大学流域圏科学研究センターの植物標本庫に保存した。調査の結果、82科331種類の維管束植物が確認された。環境省のレッドリスト掲載種は27種が生育していた。また、湖内では11種類の水草が確認され、そのうち6種がレッドリスト掲載種であった。一方、北海道の外来種リストに掲載されている種は44種類出現し、路傍や法面での採集が多かった。過去の維管束植物相調査と比較すると、今回の調査によって、これまで記載されていなかった130種類が確認され、季節を考慮した集中的で広範囲にわたる植物相調査の必要性が明らかになった。一方、水草については、過去に出現報告があるにもかかわらず今回確認できなかった種が4種存在し、それらはすべて淡水性の水草であった。特に湖の上流側にあたる南端部分での環境変化が、水草の生育に影響を及ぼしている可能性が示唆された。

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