保全生態学研究
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調査報告
ヤマザクラ・エドヒガン群生地の名勝及び天然記念物・霞間ヶ渓に生育するサクラ亜属植物の種組成と来歴
伊藤 玄大原 隆明横内 茂
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2020 年 25 巻 1 号 論文ID: 1809

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抄録

霞間ヶ渓は、岐阜県揖斐郡池田町にある名勝及び天然記念物のサクラ群生地である。生育しているサクラの種組成、来歴を明らかにするため、計 684個体を調査した。調査の結果、天然記念物指定地内には 583個体のサクラが確認された。指定要件にあるサクラとしてヤマザクラ、エドヒガン、モチヅキザクラ、イトザクラが確認されたが、指定以前から生育していた可能性が高い個体は 157個体に留まった。指定要件以外のサクラは、ソメイヨシノが最も多く確認され( 201個体)、ほとんどが 1950年前後に意図的に植栽されていた。またオオヤマザクラや、雑種である可能性が高い同定困難なサクラ類が多く確認されたが、指定要件にあるサクラに由来するものかは判断できなかった(合計 170個体)。これらのサクラのほとんどは、 1983-2004年にヤマザクラの補植を行った際に、購入した苗木に非意図的に混入した個体だった。指定地内のサクラ 583個体のうち、指定要件に合致していると考えられたサクラは約 34%であったのに対し、ソメイヨシノなどの指定要件以外のサクラは約 37%、雑種の可能性があるなどして指定要件を満たしているか判別できなかったサクラは約 29%を占めていた。以上のことから、現在の霞間ヶ渓は天然記念物の指定要件を満たしているとは言い難い状況であることが明らかになった。将来的な保存管理計画の策定を想定し、指定要件にあるサクラの樹勢回復や、個体名の命名、苗木生産体制の整備などを提案した。

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