2025 年 30 巻 1 号 p. 83-91
淡水二枚貝の生息地は、土地利用の改変により農業水路などに分断化され点在している。愛媛県では、地理的に離れた農業水路3地点でのみマツカサガイ広域分布種の生息が確認されている。その一つの水路を含む一帯で圃場整備の計画があり、マツカサガイが生息する土水路は、付け替えをせず改修のみとし、生息環境を保ったまま維持される計画である。しかし、圃場整備期間には、マツカサガイを一度採捕し、圃場整備後に放流することが必要である。そのため、本研究は、圃場整備期間においてマツカサガイの一時避難の方法を検討することを目的とした。室内の様々な条件の実験水槽5つ、および2つのため池に垂下したカゴにおいて、マツカサガイの飼育実験を行い、アワビ類用のU字型の金属タグを用いて個体識別し、生残と成長を記録した。また、本来の生息地の水路においてもマークした個体を放流し、成長を追跡した。その結果、実験水槽では、培養した珪藻を与えたり、野外の水路の水を給餌したり、市販の濃縮珪藻、ハプト藻、緑藻、Nannochloropsisを混合して給餌したりして、最長7ヵ月に亘って飼育したが、その間の生残率は一様に60%程度であった。また、実験水槽内ではほぼ殻長の成長が観察されなかった。一方、一つのため池においては、33ヵ月に亘って、82%の高い生残率で畜養でき、その間に殻長がおよそ1 mm成長した。本来の生息地である農業水路では、33ヵ月の間に2 mm程度の殻長の成長がみられた。本研究により、愛媛県で、ため池に垂下したカゴを用いてマツカサガイの一時避難を実施する体制が整った。これを用い、圃場整備前から段階的にマツカサガイを避難させ、圃場整備後の水路へモニタリングしながら逐次放流して、愛媛県で数少ないマツカサガイの個体群を維持することに務める。また、本研究により、アワビ類用のU字型の金属タグを用いることで、淡水二枚貝の個体識別ができる方法の有効性が示された。