論文ID: 1916
洋上風力発電(洋上風発)の健全な運用のためには、建設時に海鳥への影響が大きい場所を事前に予測する必要がある。本総説では、こうした洋上風発センシティビティマップの作成事例を紹介し、その作成手法や活用における課題について解説する。センシティビティマップには、船舶や航空機により取得した長期広域の洋上海鳥分布データをもとに通年にわたる広域のリスク感受性を予測したマップ(大スケールマップ)と、繁殖個体群を対象とした海鳥のトラッキングデータを用いて繁殖期間のリスク感受性を予測したマップ(小スケールマップ)がある。これらのマップは海鳥の分布に種ごとの飛行高度などリスクに関した指標と絶滅リスクなど保全に関した指標を勘案して作られている。海鳥の長期広域的な分布データの蓄積がある場合は大スケールマップが作成できる。小スケールマップは洋上風発建設にともなう対象個体群へのリスクをより詳細に示すことができる。技術的制約から現状では対象種が限られるが、トラッキング手法の進展により今後小スケールマップはより多くの種で作成されることが期待される。小スケールマップにハビタットモデルの手法を応用することで別の年や場所における採食場所や飛行経路を予測できるので、汎用性の高い手法を確立することが可能である。いずれの手法においても、生息地改変によるリスクと風車との衝突リスクは個別に評価されるので、これらの合理的な統合方法の確立が今後の課題である。