保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327

この記事には本公開記事があります。本公開記事を参照してください。
引用する場合も本公開記事を引用してください。

絶滅危惧種シマフクロウを対象とした写真撮影者の特性および観光利用における問題点
早矢仕 有子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス 早期公開
電子付録

論文ID: 2036

この記事には本公開記事があります。
詳細
抄録

絶滅危惧種シマフクロウ Ketupa blakistoniに対する国の保護増殖事業は、 1984年の事業開始時から一貫して生息地を非公開とすることで、バードウォッチャーや写真撮影者の接近がシマフクロウの採餌や繁殖に悪影響を及ぼす危険性を回避しようとしてきた。しかし、接近が容易な一部の生息地では次第に人の入り込みが増加し、とくに 2010年代に急増した。シマフクロウを餌付けして観察や撮影の場を提供している宿泊施設も複数存在し、生息情報が拡散し続けている。インターネット上に公開されているシマフクロウの写真を掲載した個人のブログを検索すると、 47.4%に撮影地が明記されており、シマフクロウが見られることを宣伝材料にしている宿泊施設で撮影されていた。これら 4軒の宿泊施設のうち 3軒はシマフクロウを餌付けしており、残りの 1軒は、宿を取り囲む国有林で採餌や繁殖している個体を見せていた。インスタグラムでは 55.1%の投稿で撮影地が記載されており、そのすべてがシマフクロウを餌付けしている宿であった。ブログに掲載されている写真の 87.3%は夜間に撮影されており、光源にはストロボあるいは宿泊施設が撮影や観察のために設置した照明を使用していた。昼間に自然光の下で撮影された写真は全体の 12.7%で、そのうち 32.9%は飛翔能力の未熟な巣立雛とそれを守る親鳥に接近して撮影していた。野生個体の生息地訪問者は、動物園でシマフクロウを見るガイドツアーに参加していた来園者と比較すると北海道外に居住する年長の男性が多かった。国の保護増殖事業内容についての認知度を比較すると、野生個体生息地の訪問者は、生息地で実施されている保護施策への知識があり、逆に動物園来園者は、飼育下で実施されている保護施策をより知っていた。さらに、野生個体生息地訪問者は、動物園訪問者よりも撮影や観察にまつわる行為がシマフクロウに及ぼす影響を小さいと考える傾向があり、とくに餌付けを問題視しない者が多数を占めた。本研究結果より、現状のシマフクロウ野生個体の観光利用については以下の問題点が導き出された。すなわち、 1)生息地情報の拡散、 2)餌付け、 3)人工照明の使用、 4)人工的環境への馴化、 5)保護増殖事業との軋轢、である。

著者関連情報
© 2022 著者

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
feedback
Top