保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
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岩手県におけるオダマキトリバによるサクラソウ種子の摂食
本城 正憲 北本 尚子間野 隆裕
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論文ID: 2319

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抄録

要約:岩手県滝沢市・盛岡市を流れる木賊川では現在河川改修が進行している。その影響緩和を目的として、絶滅が危惧されるサクラソウの分布調査や工事区画由来の株の自生地内系統保存が行われている。当地のサクラソウを観察したところ、果実に穴を開けられ種子が食べられている事例が多くみられたため、これらの摂食がサクラソウ個体群の種子生産に及ぼす影響を検討した。開花した小花のうち、肥大し、かつ摂食されなかった果実の割合である健全果実率は、2020年はジェネット平均14%、2021年は18%と2割以下であった。一方、肥大した果実における被食率は、2020年はジェネット平均29%、2021年は18%であった。近隣の雫石個体群における2021年の健全果実率は40%、肥大した果実における被食率は6%であり、木賊川個体群では拮抗的な生物間相互作用である植食性昆虫による摂食の影響が相対的に顕在化している可能性が示唆された。摂食痕が見られた株を観察すると、果実内部の種子を食べている鱗翅目の幼虫や蛹が発見された。交尾器の観察により種名を同定したところトリバガ科のオダマキトリバと判明した。オダマキトリバによる摂食はジェネットや年次間で変動がみられ、その帰結として木賊川個体群のサクラソウは遺伝的多様性を保ちながら種子を生産できていると考えられた。このことから、現時点では人工授粉や袋がけによる果実保護など喫緊の保全対策を実施する段階にはないが、継続的な種子生産状況の把握が重要と考えられた。地域の生態系は、拮抗的な生物間相互作用も含めて成立しており、それらも含めて生態系を保全していくことの重要性が指摘されている。このことを踏まえると、オダマキトリバもサクラソウとともに地域の生態系の構成種の一つとして認識したうえで、環境改変が地域の生態系に及ぼす影響をモニタリングしていくことが重要であると考えられた。

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