抄録
カキ(Diospyros kaki Thunb.; 2n = 6x = 90)はその脱渋性の違いから完全甘ガキ(PCNA),不完全甘ガキ(PVNA),不完全渋ガキ(PVA)および完全渋ガキ(PCA)の4タイプに分類される.これらのうち,PCNAタイプのカキは樹上で安定して脱渋するため育種において最も重要である.PCNA品種には日本原産のもの(J-PCNA)と中国原産のもの(C-PCNA)の2タイプが存在し,これらは遺伝的に異なったメカニズムにより脱渋する.本研究では,‘羅田甜柿’(C-PCNA)に‘四ッ溝’(PCA)と‘岩瀬戸’(PCA),および‘晩御所’(J-PCNA)を交配して得た交雑実生集団における果形および果実重と甘渋性との関係を調査した.交雑実生の甘渋性に関して,‘羅田甜柿’にいずれの品種を交雑した場合でも理論的にJ-PCNAは出現しないため,得られたPCNAはすべてC-PCNAであると考えた.いずれの交雑組合せの後代においてもPCNA個体の果実の果径指数,縦径および種子長は非PCNA個体の果実より有意に小さく,PCNAのほうが扁平で縦径の小さい果実であった.一方,果実横径はPCNAと非PCNAの間に有意な差はみられなかった.3交雑組合せの果実重平均値を比較すると,PCNAのほうが小さかったが,その差は5%水準では有意ではなかった.果肉の柔細胞についても,横径には有意差がみられなかったが,断面積および長径についてPCNA果実でおよそ10%の減少がみられた.これらの結果より,PCNAでは,細胞の縦方向への伸長が抑制され,縦径が短くなることが明らかとなった.この原因として,CPCNA遺伝子による果実内でのプロアントシアニジン蓄積の抑制が間接的に果実成長に影響する可能性,あるいはCPCNA遺伝子座近隣に果実の縦方向への伸長を抑制する遺伝子が存在する可能性が考えられた.