2022 年 21 巻 3 号 p. 343-349
ネギは緑植物春化型植物であり,花芽形成は成熟相に達した植物体への低温遭遇により生じ,その後の高温と長日条件で花茎の伸長が促進されて抽苔する.抽苔したネギは商品価値が低下することから,抽苔が始まる前に一定の大きさまで成長させて収穫する必要がある.本研究では九条系葉ネギの中で,越冬栽培・春どり作型で栽培される ‘九条太’,‘春あんじょう’,および通年栽培品種の ‘スーパーあんじょう’ の3品種を用いて,8月上旬~10月中旬まで播種時期を変えることで低温遭遇時の植物体の生育段階を変えて,抽苔に及ぼす影響を解析した.播種日が遅く,低温遭遇時に成熟相への移行が不十分だった場合,‘九条太’では最終的な抽苔個体数の減少と抽苔の進行の遅延が生じること,‘スーパーあんじょう’ では,後者のみが生じる場合があることが示された.抽苔により商品価値の低下が顕著になる時期を半数が抽苔した日に基づいて評価すると,‘九条太’ に比べて ‘スーパーあんじょう’ は抽苔に関して早生性の品種である一方,‘春あんじょう’ は抽苔に関して晩生性の品種であり,抽苔の回避に適している.加えて,‘春あんじょう’ は抽苔個体数の増加が緩やかで,抽苔の開始を感知した後でも大半の個体が抽苔する前に収穫を完了できる,抽苔による品質低下のリスクが低い品種と評価される.いずれの品種にも花芽成長の速度が異なる系統の混在が認められ,成熟相への移行が不十分な場合にそれぞれの特性が顕著に発現すると考えられる.‘春あんじょう’ に含まれる花芽成長の速度がより遅い系統は,成熟相への移行が十分な場合でも特性を発現することから,これを選抜することでさらに抽苔のリスクの低い品種を得ることが期待される.