2021 年 13 巻 2 号 p. 76-88
本研究の目的は,エンゲル方式を用いて貧困基準を試算し,現行の生活保護基準額との比較検証を試みて,その有用性や課題を明らかにすることである。試算結果である,夫婦子ども3人世帯の生活扶助基準相当額は,14.0万円~23.2万円と幅のある結果となった。推計モデル[3]のみ低い水準を示したが,推計モデル[1],[2],[4]はおよそ同水準の結果を示しており,消費支出階級の選択よりも,勤労控除の取り扱いをどうするかが,生活扶助相当額を左右していた。絶対性を包含するエンゲル方式では,推計モデル,食料費の構成,生活扶助相当に含む内容など作業段階における判断の裁量によって貧困基準に幅が生じる。分析結果から,2009年時点において,相対的基準がエンゲル方式による絶対的基準を下回っていると結論づけるのは早計であると考えるが,絶対的基準が担保されているかを継続して検証することの必要性を看取できる。