2024 年 23 巻 3 号 p. 213-223
日本の代表的な伝統的香辛野菜であるワサビの生産量が減少の一途をたどっている.主要卸売市場データによると1989年のピーク時に約460トンであった生産量は減少を続け2021年には220トンに半減した.2021年度には国内総生産量と生産額に占める静岡県の割合がそれぞれ89,90%となり,高いブランド力が示された.ピーク時には全国9割の都道府県で計上されていたワサビ生産も,2020年には九州や四国で生産量がない県が半数ほどになっていた.1962年に第2位であった島根県は生産量の落ち込みが著しく,流通や災害,単価の下落など複数の要因が重なった結果と考えられる.かつて約8割の都道府県で栽培されていた在来種も,生産者数の減少とともに消失した可能性がある.ワサビに限らず,薬味として利用されることが多い伝統野菜の品目は生産量の減少が目立ち,新規導入野菜との比較から,食の欧米化との関連性が示唆された.森林国日本ならではの食文化と食材は貴重な収入源となり,山村の地域振興も期待できる.生産者を守ることは資源や文化を守ることにつながるため,早急に対策を講じる必要がある.