2020 年 2 巻 p. 1-9
本研究では,対人関係ゲーム・プログラムを小学3年生に実施し,対人関係ゲーム・プログラムの実施が引っ込み思案行動,攻撃行動の高い児童にどのような心理的意味をもたらすのかを質的検討を通して明らかにすることを目的とする。介入学級は公立小学校3年生の1学級で,その中から2名の引っ込み思案児,2名の攻撃児,2名の引っ込み思案行動及び攻撃行動を併せ持つ児童を選定した。介入学級にはX年9~10月に計6回からなる対人関係ゲーム・プログラムを実施した。結果として,対人関係ゲーム・プログラムの実施を通して,対象児の攻撃行動,引っ込み思案行動の減少が見られた。プログラムへの参加を通して,クラスメートと関わる機会が増加し,それを楽しんだからだと考えられた。しかし,攻撃行動の減少には限定的な効果しか得られなかった。加えて,本研究で作成した仮説モデルはあくまで一事例からのものであるため,今後さらなる検証が求められる。
This study examines the psychological impact of conducting social interactive games for elementary school children with high withdrawal and aggressive behaviors. The participants for intervention were selected from a class of third graders. We selected two children with withdrawal, two children with aggression, and two children with both withdrawal and aggression from the aforementioned class. In this class, social interactive games were conducted six times in two months. The results indicated that by conducting social interactive games, the children procured more opportunities to engage with their classmates, and they enjoyed playing these games. Thus, it was considered that such games led to a decrease in withdrawal and aggressive behaviors by target children. However, only a limited effect was observed when it came to reduction in withdrawal and aggressive behaviors. Additionally, the hypothesis model employed in this study is formulated on the basis of only one example; therefore, further investigation is required in the future.
学校現場では不登校やいじめ等の学校不適応が社会問題となっている。佐藤・佐藤・高山1)は,仲間から拒否される児童は攻撃児と引っ込み思案児から構成され,彼らは仲間との相互交渉に必要なソーシャルスキルに欠けているために仲間からの受容が悪いと述べている。しかし,ソーシャルスキルが向上することで,仲間からの社会的受容も良好になることが明らかになっており2),ソーシャルスキルの獲得・向上により,対人関係の問題の改善や学校不適応の予防・緩和が期待できる。
学校現場で予防啓発的アプローチとして実践されている心理教育プログラムは数多く存在するが,児童の対人関係の問題に効果的に作用することが期待できるアプローチの一つとして対人関係ゲーム・プログラム(Social Interaction Games;以下SIGsと略す)が挙げられる。SIGsは,児童が学級集団に入る不安・緊張と同時に,学級のメンバー側の受け入れる不安・緊張を緩和するために,身体運動反応と楽しいという情動反応を活用する3)。つまり,SIGsは,人と関わる要素を含んだ遊びを実施し,遊びの身体運動反応や情動反応によって,不安や緊張を逆制止して対人行動を可能にする4)。SIGsの効果として,山下・窪田5)は,対人関与の苦痛傾向及び引っ込み思案行動の減少,集団凝集性の向上を明らかにしている。また,山下・窪田6)は,SIGsによりクラスメート同士及び学級全体での関わりの増加が見られ,それにより学級の雰囲気のよさの促進や学級のまとまりに繋がっていると考察している。しかし,山下・窪田6)は,学級集団だけなく個別の児童の体験からみたSIGsの効果に関する質的な検証も求められると述べている。そこで本研究では,SIGsの実施が引っ込み思案児,攻撃児にどのような心理的意味をもたらすのかを質的検討を通して明らかにすることを目的とする。
公立A小学校3年生の1学級31名(男子15名,女子16名)に対してSIGsを行った。介入学級は落ち着きがない児童が多く,学級集団としてのまとまりがなかった。またソーシャルスキルが未熟な児童が多く,対人関係のトラブルが頻繁に生じていた。介入学級の中から,SIGs実施前に行った質問紙及び担任教諭への聞き取りを基に対象児を選定した。なお,質問紙については,小学生用社会的スキル尺度7)の引っ込み思案・攻撃行動の得点が,同学年他学級を含めた全学級の平均点から2標準偏差以上の得点の児童を対象児とした。その結果,引っ込み思案児としてA(女子),B(女子),攻撃児としてC(女子),D(男子),両行動共に高い児童としてE(男子),F(女子)を抽出した。なお,E(男子)は担任教諭への聞き取りからは攻撃行動を認識していなかったが,質問紙における攻撃行動得点が高かったことに加えて,筆者による事前の行動観察時において,目に見える攻撃行動はなかったものの,言語的コミュニケーションの中で攻撃性が見られたことから,対象児として選定した。
(2) 実施時期・回数X年9~10月に計6回実施した。
(3) 実施方法ゲームの指導は第一筆者が行った。担任教諭は毎回筆者と次回の打ち合わせを実施し,ゲームの構成を考えた他,ゲーム内では児童と同様にゲームに参加し,トラブルがあった場合はその対応を行った。1単位時間は45分で,学級活動の時間をあて,導入(5分)→ゲーム(30分)→振り返り(10分)とした。また,担任教諭との事前協議を通して,プログラムの中での約束事として,「授業中なので静かにしよう」,「人の傷付くことは言わない」,「人の話は最後まで聴こう」,「挨拶をしよう」の4点を挙げ,毎回の導入部分において提示し,丁寧に確認した。ゲームのルール説明では,モデル演技を実施し,支援の必要な児童をモデルにすること,ルールを視覚的に提示すること等の工夫をした。実際に実施されたゲームの概要を表1に示す。
| # | ゲーム名 | ねらい |
|---|---|---|
| 1 | ○全身ジャンケン ○後出しジャンケン ◎ひたすらジャンケン |
関係をつけるゲーム。(1)SIGsに慣れること,(2)ジャンケンを通して不安・緊張を軽減し,多くの者と段階的に関わりを深め,仲間作りの契機とすることを狙いとした。 |
| 2 | ○ジャンケン列車 ◎進化ゲーム |
関係をつけるゲーム。(1)運動量の多いゲームによって心理的緊張をほぐすこと,(2)楽しさを共有する体験を重ね,その中で自分は人に受け入れられるし,人を上手に受け入れることができるという自信を高めることを狙いとした。 |
| 3 | ○サケとサメ ◎凍り鬼 |
集団活動の楽しさを実感するゲーム。(1)集団としての一体感を体験すること,(2)助け,助けられるという協力関係によって,自分が人の役に立ったり,優しくしてもらったりする体験をすることを狙いとした。 |
| 4 | ○ひたすらジャンケン ◎勇者と仲間たち |
集団活動の楽しさを実感するゲーム。(1)集団としての一体感を体験すること,(2)勝つことよりも人と楽しむおもしろさを経験することを狙いとした。 |
| 5 | ◎とっつぁんとルパン | 集団の構造・役割分担を実施するゲーム。(1)集団の構造・役割分担を体験し,群れを体験すること,(2)目的を共有し,目的の達成のために,仲間と力を合わせること,(3)仲間と同じ目的に向かって一丸となって挑むことで,協力する楽しさ,一緒に走り回る楽しさを体験することを狙いとした。 |
| 6 | ○凍り鬼 ◎ルパンと仲間たち(筆者考案) |
集団の構造・役割分担を実施するゲーム。(1)集団の構造・役割分担を体験し,群れを体験すること,(2)チーム全体のことを考えながら,自分の役割を果たすようになること,(3)助け助けられ合いながら,協力して目標を達成する体験をすることを狙いとした。 |
SIGs実施前(Pre),実施直後(Post)及び1ヶ月後(F-U)に実施した。質問紙は,「小学生用社会的スキル尺度7)(4件法)」,「対人関与の苦痛傾向に関する項目5)(4件法)」,「学級機能尺度8)(4件法)」によって構成されていた。なお,小学生用社会的スキル尺度7)は,攻撃行動,引っ込み思案行動,向社会的スキルの3つの下位尺度によって構成されている。
2) 振り返り用紙ゲームごとに,「クラスメートとの関わり」,「クラスメートとの関わりの楽しさ」の2項目(4件法)への回答と,自由記述への記入を求めた。
3) 担任教諭への半構造化面接SIGs終了1ヶ月後に担任教諭への半構造化面接を行った。質問項目は,「SIGs実施前後の引っ込み思案児・攻撃児の様子」,「担任教諭との関わりの変化」,「その他感想」であった。
4) SIGs実施時における行動観察ビデオ撮影による対象児の行動観察を行った。なお,ビデオの撮影に関しては事前に管理職・担任教諭に了解をいただき,担任教諭から口頭及び通信にて,児童及び保護者に伝えられ,了解を得た。
担任教諭への聞き取りによる介入前の対象児の状況を表2に示す。
| 対象児 | 特徴 | |
|---|---|---|
| A | 引っ込み思案 | 授業で発表をするが,周囲の児童との感覚のずれがあった。クラスメートとの関わりは緊張を伴っていた。 |
| B | 引っ込み思案 | 極度の引っ込み思案。意思表示ができず,自分を表現することが苦手。遊ぶ仲間も特定の児童と固定化している。 |
| C | 攻撃 | 友人に対して攻撃的な関わり。自己表現が苦手。 |
| D | 攻撃 | 授業中も含めて落ち着きがない。クラスメートとのトラブルも多く,攻撃的な関わりをとる。 |
| E | 両方 | 奥手で,友達の輪に入りたいけど入れないことが多い。担任教諭によると攻撃行動はあまりない。 |
| F | 両方 | 攻撃行動も引っ込み思案行動もある。対人不安が高く,人付き合いが苦手。何か少し言われただけで,どう対応していいか判断できず,攻撃行動をとることが多かった。 |
行動観察における対象児のSIGsへの参加の様子を表3に示す。
| 対象児 | 特徴 | |
|---|---|---|
| A | 引っ込み思案 | #1:初めは一人でいることが多かったが,他児から誘われたことを契機に積極的に他児を誘っていた。 #2:初めから積極的に対戦相手を探し,手招きや声かけをしながら誘い,誘われたら対応していた。 #3:初めは多児との接触はなかったが,他児から助けられると,次第に体全体を使い,援助を求め,他児のことを積極的に助けていた。 #4:担任教諭と同チームで,それが嬉しい様子であった。チームメートと助け合い,笑顔が絶えなかった。 #5:助け合う,協力し合うことには至らなかったが,笑顔を見せながら走り回っていた。 #6:チームメートと助け合う体験ができた。作戦タイムも発言はないが,積極的に参加していた。 |
| B | 引っ込み思案 | #1:初めは他児から多く誘われていたが,次第に少なくなり,ボーっと立ちつくしていることが多かった。 #2:初めは部屋の隅にいることが多かった。誘われるようになると適切に応答。対戦相手を積極的に探していたが,誘うまでは至らず。 #3:他児から助けられる体験を繰り返す。Bからの働きかけはなかった。 #4:他児が負け続けることが嬉しそう。Bが負けた際,声にはできないが,しぐさや視線で助けを求めた。 #5:前半は鬼。他児と協力して捕まえていた。後半は他児を助けることはなかったが,鬼から必死に逃げ,捕まったら手をつなぎながら陣地に向かっていた。 #6:自分の役割を果たそうと努力しつつ,捕まるとチームメートから助けてもらう体験ができていた。作戦タイムでは仲間の輪には入れないが,誘われると中に入ることができた。 |
| C | 攻撃 | #1:他児から誘われる際は適切に応対。自分から誘う際で相手が自分とは逆を向いていた場合,相手の手を強く引っ張りながら強制的に誘っていた。 #2:初めは受け身的で一人でいることも多かった。後半は自分から他児を適切に誘うも,時々押す等の不適切な働きかけもあった。 #3:初めは走り回るだけで他児との接触はなし。後半は鬼に何度も捕まっていたが,他児から助けてもらう体験を繰り返し,自らから「助けて」と援助を求めていた。 #4:チームメートが負け続けても,ゲーム自体が楽しかったようで笑顔を見せながら参加していた。 #5:病気のため欠席。 #6:自分の役割よりも逃げ回ることばかりであったが,仲間から助けられる体験ができていた。作戦タイムはやや消極的な参加も,チームメートに話しかける様子が見られた。 |
| D | 攻撃 | #1:初めは担任や指導者の傍にいる等消極的な参加。次第に他児から誘われると応答。自ら誘う際は相手を少し強めに叩き,半ば強制的に誘う。結果発表時に事実と異なる学級内の最高記録に挙手。勝負に対するこだわりを見せた。 #2:体調が悪かったが,SIGsに参加したいと訴え,遅れての参加。初めは一人でいることが多かったが,担任教諭に誘われてからは自ら誘う行動も見られた。しかし,押す等の不適切な行動も見られた。 #3:Dから他児に突進したせいで転び,機嫌が悪くなり,拗ねているような様子を見せた。ゲーム復帰後は鬼から華麗に逃げ回り,他児を積極的に助けていた。転んで泣いている児童を気遣う場面もあった。 #4:チームメートが何度も負けても笑顔で話す様子が見られた。Dも負け続け,何度も助けられていた。攻撃行動は見られず。 #5:鬼の時は自慢の足の速さを活かし,次々にルパンにタッチしていたものの,ルールと異なり,ルパンを陣地に連れて行かなかった。ルパンの時は,鬼から華麗に逃げ,宝を奪いに行こうとする様子が何度も見られた。攻撃行動は見られなかった。 #6:自分の役割を全うし,単独プレーが多かったがチームの勝利に大きく貢献した。また,チームメートを助ける姿も見られた。作戦タイムは積極的に参加していた。 |
| E | 両方 | #1:当初は一人でいる時間が多かったが,誘われることが多くなると適切に応答していた。しかし,自ら誘う時はつついたり,押したり等,不適切な行動があった。 #2:一人でいることが多く,自分から働きかけることはない。クラスメートからの誘いには上手に応答。 #3:他児を助けたり,他児から助けられたりすることが多く見られた。 #4:怪我を押しての参加。他児が負けると悔しさを表すが,仲間と共にその子を助ける場面が見られた。 #5:怪我のため,全てとっつぁんチームとして参加。宝を奪いに来るルパンから必死に宝を守る。タッチしたのに陣地に連れて行かないチームメートへの注意やタッチされたのに逃げ回る児童への指摘をジェスチャーを交えながら行っていた。 #6:怪我のため,陣地で宝を守る役割での参加。相手チームから宝を守ることに集中。作戦タイム時は,積極的ではないが輪の中に入っていた。 |
| F | 両方 | #1:初めは時々ジャンケンに誘われるが一人でいることが多かった。後半は他児が多い場所に行き,誘われることが多くなり,適切に応答。 #2:初めは一人でいることが多かった。後半は積極的にジェスチャーを用いて他児を誘い,勝った喜びを表現するなどの行為が見られた。 #3:前半は鬼として他児を追いかける。後半は鬼に捕まった後,しばらく助けられないまま立ちつくしていたが,他児から助けられた後は積極的に他児を助けていた。 #4:負けた際に「助けて」と言葉にして助けを求めた。他児が負け続けると苛立ちを表すが,助けに行くことができていた。 #5:鬼の時は,仲間と協力してルパンを捕まえる。ルパンの時は,鬼から逃げ回るが,対人接触は見られず。 #6:自分の役割を果たそうと走り回っていた。作戦タイム時は,一人離れて過ごしていた。 |
SIGs 1ヶ月後に実施した担任教諭への聞き取りによると,対象児の様子は以下の通りであった。
引っ込み思案児であるAは,引っ込み思案行動はほとんどなく,Aなりに仲間に入ることができている。休み時間も仲間と遊び,グループ活動でも話し合いに参加し,意見を言っている。Bは引っ込み思案行動が減少したが,友人の中で自分を抑える傾向がある。しかし,受け身的ではあるが,自分を出したくて出せないのではなく,集団の中では聴き役であるだけではないかと担任教諭は考えている。
攻撃児については,両者とも攻撃行動に変化がない。Cは何かあると友人を叩くこともあり,友人が「嫌」と言っても止めきれない。もしかすると頻度は減少したかもしれないが,現在も攻撃行動がある。Dも他学級の子に対して突然叩いたり蹴ったりすることがあった。
引っ込み思案行動及び攻撃行動を併せ持つ児童において,Eの攻撃行動は以前も現在もない。現在は孤立してはおらず,楽しそうに過ごしている。怪我のため休み時間に遊ぶことはできないが,完治後にはうまく仲間の輪に入れればと担任教諭は考えている。Fの攻撃行動はこの2ヶ月間は全くなく,何かを言われても言い返すことがなくなった。引っ込み思案行動もない。休み時間は友人と遊んでいる様子をよく見る。
(2) 振り返り用紙からみるSIGsの効果ゲームごとに実施した振り返り用紙の結果を表4,表5に示す。一部を除いて,クラスメートと多く関わり,それを楽しんでいたことが推測される。自由記述では,Aが第1回に「わたしは,学校の休み時間にともだちと,あそびたくても,きんちょうして,声をかけられなくて,だけど,このゲームで,みんなとあそべて,とてもうれしかったです。」と述べている。このように,引っ込み思案行動の高い児童の一部は,当初は「関わりの少ない人との関わり」も見られたが,すぐに見られなくなった。加えて,SIGsで実施されたゲームは日常生活(昼休み等)の中で実施されていることが明らかになった。
| クラスメートとの関わり | 関わりの楽しさ | |||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| #1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #6 | #1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #6 | |
| A | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
| B | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
| C | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | ||
| D | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 |
| E | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
| F | 4 | 4 | 2 | 2 | 4 | 3 | 4 | 4 | 2 | 2 | 4 | 3 |
| #1 | #2 | #3 | #4 | #5 | #6 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A | クラス全体での関わり:楽しさ | ゲームに関する感想・気づき: 楽しさ,学び 実施者との関わり:感謝 |
クラス全体での関わり:助けた 喜び クラス全体での関わり:楽しさ |
担任教諭との関わり:楽しさ ゲームに関する感想:楽しさ 実施者との関わり:ゲーム 実施の希望 |
担任教諭との関わり:楽しさ,不満 | ゲームに関する感想:楽しさ 振り返り:最後の寂しさ 実施者との関わり:感謝 |
| B | ゲームに関する気づき | 無記入 | ゲームに関する感想・気づき: 身体運動反応 |
ゲームに関する感想・気づき: 身体運動反応 |
ゲームに関する感想:楽しさ ゲームに対する感想・気づき: 身体運動反応 |
クラス全体での関わり:全体を 見渡しての感想 |
| C | 今後の展望:日常生活での実施 | ゲームに関する感想:勝負の楽しさ | 今後の展望:日常生活での実施 | ゲームに関する感想:楽しさ | 欠席 | ゲームに関する感想:楽しさ |
| D | 関わりの少ない人との関わり: きつさ |
ゲームに関する感想・気づき: 身体運動反応 |
無記入 | ゲームに関する感想:楽しさ 実施者との関わり:ゲーム 実施の希望 |
ゲームに関する気づき 実施者との関わり:ゲーム 実施の希望 |
実施者との関わり:ゲーム 実施の希望 |
| E | ゲームに関する感想:勝負の楽しさ | ゲームに関する感想:楽しさ | ゲームに関する感想:楽しさ | ゲームに関する感想:楽しさ | ゲームに関する感想:楽しさ | ゲームに関する感想:楽しさ 実施者との関わり:ゲーム 実施の希望 |
| F | 関わりの少ない人との関わり: 楽しさ |
クラス全体での関わり:楽しさ | ゲームに関する気づき:身体運動反応 | ゲームに関する気づき:身体運動反応 | ゲームに関する感想:楽しさ | ゲームに関する感想:楽しさ |
質問紙における各尺度得点の推移を表6に示す。
| 引っ込み思案児 | 攻撃児 | 両方 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | B | C | D | E | F | |||
| ソーシャルスキル | 向社会的 スキル |
Pre | 2.67 | 4.00 | 3.33 | 1.67 | 1.67 | 3.33 |
| Post | 2.67 | 3.00 | 4.00 | 1.33 | 4.00 | 2.33 | ||
| F-U | 2.67 | 4.00 | 1.67 | 2.00 | 3.00 | 3.33 | ||
| 攻撃行動 | Pre | 2.25 | 1.75 | 2.75 | 2.50 | 2.75 | 3.00 | |
| Post | 1.75 | 1.25 | 2.25 | 2.50 | 2.25 | 1.00 | ||
| F-U | 1.75 | 1.00 | 3.25 | 2.00 | 1.00 | 4.00 | ||
| 引っ込み 思案行動 |
Pre | 3.25 | 3.25 | 2.00 | 1.00 | 3.25 | 4.00 | |
| Post | 2.00 | 2.00 | 1.00 | 1.00 | 1.00 | 2.75 | ||
| F-U | 2.50 | 1.00 | 1.75 | 1.00 | 1.00 | 2.75 | ||
| 対人関与の 苦痛傾向 |
Pre | 2.00 | 3.00 | 1.00 | 1.60 | 1.00 | 1.00 | |
| Post | 1.80 | 1.00 | 1.00 | 1.40 | 1.00 | 1.00 | ||
| F-U | 2.00 | 1.60 | 1.00 | 1.60 | 1.00 | 1.00 | ||
| 集団凝集性 | Pre | 2.00 | 4.00 | 2.20 | 2.20 | 1.60 | 2.40 | |
| Post | 3.20 | 4.00 | 4.00 | 2.20 | 4.00 | 3.00 | ||
| F-U | 3.20 | 4.00 | 3.40 | 2.00 | 2.40 | 2.40 | ||
引っ込み思案児は,引っ込み思案行動がPostでは両者とも低下した。AはF-Uには上昇したが,Preよりは下回った。BはF-Uにはさらに減少していた。向社会的スキルは,特に変化が見られなかった。対人関与の苦痛傾向では,Aに変化は見られないものの,Bは大幅に低下した。集団凝集性は,Aは上昇し,Bは高い得点を維持していた。
攻撃児は,両者とも攻撃行動の変化は見られなかった。Cに至ってはPostではやや低下したが,F-UではPreよりも上昇した。向社会的スキルは,Dは変化が見られなかったが,CはPostで上昇したものの,F-UではPreより低下していた。対人関与の苦痛傾向は,両者とも低い状態を維持していた。集団凝集性は,Dは変化が見られなかったが,Cは大幅に上昇し,F-Uでも高い状態を維持していた。
引っ込み思案行動及び攻撃行動を併せ持つ児童は,引っ込み思案行動が両者とも低下した。攻撃行動は,EはPostで減少し,F-Uでさらに減少した。FはPostで大幅な改善が見られたが,F-UではPreよりも高くなっていた。向社会的スキルは,Eは上昇したが,Fは変化がなかった。対人関与の苦痛傾向は,両者とも低い得点を維持していた。集団凝集性は,両者ともPostは上昇したが,F-Uには低下していた。
(4) 担任教諭への半構造化面接からみるSIGsの効果全ての発言内容から個別の対象児に関わるものを抽出し,「SIGs実施前の対象児の様子」,「ベースラインに影響を与える要因」,「SIGs実施後の対象児の様子」,「対象児に影響を及ぼしたSIGsの要因」,「対象児に影響を及ぼしたその他の要因」に分類した後,それぞれをKJ法9)に準じて分析した。
その結果,SIGs実施前の対象児の様子では2個のカテゴリー,ベースラインに影響を与える要因では3個のカテゴリー,SIGs実施後の対象児の様子では6個のカテゴリー,対象児に影響を及ぼしたSIGsの要因では3個のカテゴリー,対象児に影響を及ぼしたその他の要因では3個のカテゴリーがそれぞれ抽出された(表7)。なお,表中の( )内の数字は出現度数を表す。
| ○ | SIGs実施前の対象児の様子 |
| 攻撃行動の表出の有無(5) | |
| 引っ込み思案行動(3) | |
| ○ | ベースラインに影響を与える要因 |
| コミュニケーション能力の未発達(4) | |
| 学習課題の存在(1) | |
| 本人の元々の特性(3) | |
| ○ | SIGs実施後の対象児の様子 |
| 攻撃行動の減少(5) | |
| 攻撃行動の不表出(2) | |
| 引っ込み思案行動の減少(5) | |
| 休み時間の過ごし方の変化(6) | |
| グループ活動への参加(2) | |
| 登校意欲の増加(1) | |
| 攻撃行動の維持(10) | |
| ○ | 対象児に影響を及ぼしたSIGsの要因 |
| ゲームの楽しさ(1) | |
| 緊張の減少(1) | |
| 情動反応(1) | |
| 〇 | 対象児に影響を及ぼしたその他の要因 |
| 本人の選択(1) | |
| 怪我の影響(2) | |
| 本人の元々の特性(3) |
これをもとに本研究におけるSIGsが対象児に及ぼす効果の仮説モデルを作成したものが図1である。なお,今回は分析対象としていないが,担任教諭によるインタビューで明らかになったSIGsによる個人及び学級集団の変化(山下・窪田5))も対象児に大きく影響を及ぼしていることが考えられるため,仮説モデルに組み込んでいる。

質問紙においては引っ込み思案行動の低減が見られた。また,担任教諭への半構造化面接においても,両者とも引っ込み思案行動が減少したとのことで,行動変容が確認された。さらに,Bは対人関与の苦痛傾向も低減していた。加えて,集団凝集性得点は,Aは上昇し,Bは高い得点を維持していた。
引っ込み思案児は,対人不安傾向の高さやソーシャルスキルの未熟さから,自ら他児と交流することが少ない。しかし,SIGsの身体運動反応や情動反応によって,不安や緊張を逆制止し,対人行動が可能になり4),さらに,ゲーム中に他児からの働きかけで半ば強制的に他者と関わる場面が生じ,それを繰り返すことで,その楽しさを共有する体験を重ねることができたと考えられる。実際に,本研究でも行動観察や振り返りシートからそのような様子が確認されている。また,小松・飛田10)は,小学3年生にグループ体験エクササイズを実施し,学級が助け合ったり,励まし合ったりするような雰囲気だ,とより感じるようになれば,集団参加に関わる基本的なスキルが発現されやすくなる他,友達と積極的に関わっていこうとするスキルが発現されるようになる可能性を明らかにしている。SIGsの実施が,児童に学級の雰囲気やクラスメートの様子を肯定的に捉えさせ,集団凝集性を高く評価することが明らかになっており5),本研究でも引っ込み思案児の集団凝集性得点が高まった。加えて,SIGsは,集団になじみにくい子と共に,受け入れる学級集団の成長も援助することができるものであり,田上11)は,SIGsは対象児及びそれを受け入れる学級集団に対して,人と交流し楽しむ経験を繰り返すことで,自分は人に受け入れられるし人を上手に受け入れることができるという自信を高める場合に使われるとしている。SIGsの実施により,対象児のソーシャルスキルの獲得につながった他,学級に対する援助的雰囲気の評価が高くなることで,ソーシャルスキルの発現についての自己評価が高くなった可能性が考えられる。しかし,これらはあくまで仮説であり,今後さらなる検討が必要である。
(2) 攻撃児へのSIGsの効果質問紙においても,担任教諭への半構造化面接においても攻撃児の攻撃行動には変化は見られなかった。佐藤・佐藤・相川・高山12)は,攻撃的な子に対するソーシャルスキルトレーニングでは,「人に何かを頼む」「受け入れられないときにそれを断る」「仲間の遊びに加わる」などの行動を,攻撃的な行動に代わるものとして身に着ける必要性を指摘している。SIGsは,系統的にソーシャルスキルの獲得を目指しているわけではない。したがって,SIGs自体を楽しんではいたものの,攻撃行動に代わる行動を学習していないため,うまく他者と関わることができず,攻撃行動の低減には至らなかったことが考えられる。したがって,攻撃児に対しては,攻撃行動に代わる適切な行動の学習のため,系統的なソーシャルスキルの獲得を含めた支援が必要であると考えられる。
(3) 引っ込み思案行動及び攻撃行動を併せ持つ児童へのSIGsの効果質問紙においては,引っ込み思案行動の低減が見られた。攻撃行動は,Postでは両者とも低減し,EはF-U時にさらに減少したが,FはF-Uに維持できなかった。一方,担任教諭への半構造化面接においては,Fは攻撃行動,引っ込み思案行動とも減少が認められ,Eも孤立することはないとのことであった。この結果は,攻撃児とは異なるものであった。中田・塩見13)は,ソーシャルスキルが低い傾向のある子は,状況を適切に理解することが困難であり,攻撃的な行動によって目的を達成しようとする傾向があると述べている。本研究において,Fは以前から「何か少し言われただけで,どう対応していいか判断できず,攻撃行動をとる」ことがあった。それが,SIGsを通して,不安や緊張を感じにくい中で多くのクラスメートと関わり,彼らと関わることの楽しさを共有する体験を重ねることで,彼らの意識していないところで他者との関わり方を学習し,攻撃行動をとる必要性がなくなり,減少したと考えられる。しかし,質問紙においてFのF-U時の攻撃行動が再び上昇していることから,攻撃児同様,攻撃行動に代わる適切な行動の学習が求められる。
(4) まとめと今後の課題SIGsの実施を通して,SIGsの遊びの魅力から児童が楽しくやれたこと,それによるSIGsへの児童の動機付けの高まり,さらにはSIGsで実施した遊びを児童がアレンジしながら遊ぶといった日常生活での実施も見られたことが,対象児の攻撃行動,引っ込み思案行動の減少につながったと考えられる。それは,ゲームの魅力や不安・緊張の逆制止というSIGsの特徴が影響していることが考えられる。さらにクラスメート及び学級全体での関わりの増加が見られ,学級の雰囲気のよさの促進や学級のまとまりに繋がり,集団側も対象児を受け入れやすい環境が整えられたことが考えられる。しかし,攻撃行動の減少には限定的な効果しか得られなかった。加えて,本研究で作成した仮説モデルはあくまで一事例のみに基づくものであり,今後さらなる検証が求められる。