人間科学
Online ISSN : 2434-4753
研究論文
幼児期から児童期における人とかかわる力に関する縦断研究~協働性の質的変容に着目して~
森 暢子門田 理世野口 隆子鈴木 正敏芦田 宏箕輪 潤子秋田 喜代美小田 豊無藤 隆上田 敏丈中坪 史典
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 2 巻 p. 36-45

詳細
抄録

4歳から小学2年生までの子どもの発達調査を全国5地域で縦断的に行い,4年間の協働性のデータが全て揃っている318人の子どもの人とかかわる力の伸びの様相の分析を行った。協働性と自己調整の観察評定値は,年齢が上がるにつれて全体平均では伸びているが,四分位数の中央値で高群・低群に二分して4年間の変容を見ると,協働性も自己調整も16種類に分散され,一人一人異なる様相を見せながら育っていっていることが明らかとなった。社会情動的スキルは一定の発達曲線をたどっていかないこと,一人一人に応じた質の高い保育及び環境の必要性が示唆された。

Abstract

In this four-year longitudinal study, the authors explored how children develop their self-control and interpersonal collaborative skills. The total of 318 children in five regions across the country participated in this study when they had been 4 years old to 2nd grade. The average of the whole group observational rates of the collaborative and self-control competencies increased along with the ages. However, to illustrate the four-year transformation by dividing the data into high and low groups with median quartiles, the collaborative and self-control competencies were distributed in 16 types, which depicted children developed the competencies with their own pattern individually. This study suggested the social and emotional competencies do not follow a constant developmental curve, therefore, high quality care and education is necessarily in order to foster the children’s collaborative competencies.

1. はじめに

昨今,乳幼児期から青年・成人期の育ちにおいて,社会情動的スキルの重要性が謳われている1)。Volatility(変動性),Uncertainty(不確実性),Complexity(複雑性),Ambiguity(曖昧性)と称されるVUCA社会の到来と言われる中で,個々人に求められるコンピテンシー(資質能力)として,言葉や数の知識や技能獲得に代表されるような認知的側面だけではなく,自らの意思や意欲や規範意識,そして,他者への思いやりや他者との協働といった社会情動的側面も重要であると諸外国でも考えられるようになってきた2)3)。わが国において「幼稚園修了までに育つことが期待される心情,意欲,態度」をねらいとする保育内容が定められたのは平成元年の幼稚園教育要領改訂であるが,以降約30年に渡って,日本の保育カリキュラムは社会情動的側面を念頭に幼児期から児童期への接続を捉えてきた経緯がある4)

実際,現行の幼稚園教育要領,保育所保育指針,幼保連携型認定こども園教育・保育要領においても,児童期への接続が「学びに向かう力」を培う観点から検討されており,乳幼児期において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として社会情動的側面が記載されている5)~7)。この「学びに向かう力」こそが社会情動的スキルの獲得を意味している8)ことからも,このような潮流の中で幼児期から児童期への接続のあり方を指向するにあたって,接続期における社会情動的スキルの獲得段階を検証することは意義深いと言える。

また,保育においてはこの時期の発達を「自我が芽生え,他者の存在を意識し,自己を抑制しようとする気持ちが生まれる」9)~11)と捉え,「様々な変化に積極的に向き合い,他者と協働して課題を解決していくこと」12)等を保育の質で保証することが求められている。

上記に加え,21世紀型スキル13)やEducation 203014)15)を見据えた育ちの根幹として社会情動的スキルと認知能力の両側面が必要とされており,特に幼児期から育むことが望ましいとされる社会情動的スキル16)が,どのような発達段階をたどって培われていくのかを検証することは喫緊の課題と言える。

社会情動的スキルには,自らの目標の達成(例:忍耐力・自己制御・目標達成への思い等)や情動の抑制(自己肯定感,自尊心,自信,楽観性等),他者との協働(社交性,他者への敬意,思いやり,道徳性等)が挙げられる17)が,わが国において,こうしたコンピテンシーを幼児期から児童期まで縦断的に検証した研究が十分であるとはいいがたい18)19)。そこで,本研究では,著者らが幼児期(4歳)から児童期(小学2年生)までの4年間を追った縦断研究調査から,社会情動的スキルとしての他者とのかかわりの中で育まれる「協働性」に着目し,4歳児クラス(以降,4歳とする),5歳児クラス(以降,5歳),小学1年生,小学2年生のそれぞれの時期における発達の特性,及び,個々の子どもの事例を取り上げながらその発達過程を検証することを試みる。また,「協働性」の変容を分析するにあたり,自らへ働きかける「自己調整」及び認知能力としての「言葉(語彙量)」のデータを参考とし,「自己調整」や「言葉(語彙量)」との関係性から「協働性」の育ちについて検討したい。

2. 方法

2011年度から2015年度までの5年間,全国5地域において,協働性,自己調整能力,言語発達(語彙能力),科学的思考力の4側面を対象とした子どもの発達調査を行った注1)。調査参加者は,関東・東海・近畿・中国・九州地区の11幼稚園・15保育所の計26園と14小学校に通う,4歳817人,5歳839人,小学1年生867人,小学2年生454人の述べ約3000人で,4歳から小学2年生までの4年間を可能な限り追跡調査した。

(1) 分析対象

本稿では,上記の4歳から小学2年生までの述べ約3000人の調査結果のうち,協働性の調査データが4歳・5歳・小学1年生・小学2年生の4年間全て揃っている318人(9幼稚園,13保育所,12小学校)の協働性,自己調整,言語調査結果を分析対象とした。

(2) 調査方法

幼稚園や保育所,小学校へ訪問して実施した①協働性,②自己調整,③言語についての調査方法を以下に記す。

調査①協働性:観察者の「積み木を使って,この写真と同じものをみんなでひとつ作る」という教示により取り組みをスタートする。子ども達は3人一組で図1・写真1のように積み木(パターンブロック)で作った課題写真(写真2,または写真3)を見ながら,白いボード上で課題に取り組む。その間,評定者(観察者)は,子ども3人一組の様子を観察しながら協働性の尺度表に「◎++,◎+,◎,○,△,△」のいずれかを記入する。調査は,入室してから退室するまでを観察対象とし,積み木課題に基づき完成の有無をみるものではなく,少人数の中での友だちとの関わりの姿から協働性のあり様をみていった。グループ編成は,生年月日の近い3名で編成するよう園や学校に依頼した。調査当日の出席や子ども数によっては,4人編成もあったが,2人組では子どもたちの関係性が異なるので行わないように取り決めた。課題写真は,幼児4・5歳用と小学1・2年生用の2種類を用意した。

図1 

協働性・自己調整の調査環境

写真1 

積み木課題への取り組みの様子(幼児)

写真2 

幼児用課題写真

写真3 

小学生用課題写真

協働性の尺度は,イギリスの評価スケール研究プロジェクトであるEPPE20)(Effective Provision of Pre-school Education)の発達3段階尺度それぞれ40項目と,柏木21)の尺度41項目を参考にし,独自の尺度表を作成した(表1)。協働性の尺度項目は10項目,それぞれの項目に観察評定を行う際の参考事例として3つずつ計30事例の記載を行った。この事例は,2011年8月に実施した予備調査において観察した少人数での取り組みの様子の中であがってきた子どもの姿から,それぞれの項目に当てはまるものとして挙げた(表1)。調査の際に,観察で子どもの姿に見られた事例に☑を付けながら尺度項目に◎や△等を記入し,調査後のデータ入力時に,◎++=6,◎+=5,◎=4,○=3,△=2,△=1と数値化して入力を行った。

表1 

協働性の観察評定項目(一部抜粋)

この調査で評定を行う観察者には,それぞれの調査地域で全国同じ予備調査ビデオを観ながら事前に観察評定を行い,観察評定の一致率を測り,調査時に一定の観点で観察評定を行えることの妥当性を確保するよう努めた。

また,全調査時における観察評定・筆記記録やビデオ撮影,IC録音等の使用については,調査依頼時に幼稚園・保育所,小学校,教育委員会に依頼をし,承諾されている。

調査②自己調整:子どもたちが,調査①協働性の課題に取り組んでいる時に,別の観察者が表2に自己調整の評定を記入していく。この自己調整の尺度表も,協働性と同じ手続きで作成した。小学生用の尺度項目は幼児と同じ7項目であるが,事例数は4事例を追加して21事例とした。

表2 

自己調整の観察評定項目(一部抜粋)

調査③言語:適応型言語能力検査(Adaptive Tests for Language Abilities:ATLANの語彙検査)22)を,iPadまたはPCを利用して子どもと調査者1対1で実施後,読み書きに対する意識,自宅学習,読書に関する意識や習い事の有無などについて尋ねた。それぞれの機器にデータ保存すると同時に,筆記記録とICレコーダーで録音した。

(3) 分析方法

小集団で積み木課題に取り組む中で子どもたちがどのように協働性を発揮し自己調整を図っているのか,4歳から小学2年生までの子どもの4年間の姿を年1回,縦断的に追い,その変容を言語発達とも照らし合わせながら質的に分析する。

対象の318人(男児155人,女児163人)の4歳から小学2年生までの4年間の協働性の評定値総計から最小値,最大値,四分位数,平均値など出し,自己調整の評定値や言語得点との関連性を検討した。

次に,協働性・自己調整の評定値総計,言語得点の四分位数の中央値を基準として,高群・低群と二分し,4歳・5歳・小学1年生・小学2年生の4年間の発達過程の様相を色分けして見た。また,特徴的な変容の子どもについては,実際に子どもたちが少人数のグループで課題に取り組んでいる様子のDVD映像(課題10分と取り組みの前後2~3分)のデータを逐語録・事例として起こし,会話・行動・位置関係・視線の方向等の分析を行った。

3. 結果と考察

(1) 調査データ全体の4年間の変容

対象全体(318人):4歳から小学2年生までの協働性,自己調整,言語の発達調査結果の最大値,第三四分位,中央値,第一四分位,最小値,四分位偏差,平均値,標準偏差を出し,箱ひげ図として図2~図4にそれぞれ記す(図の中の数値は,最大値,中央値,最小値)。

図2 

4歳~小学2年生までの4年間の協働性評定値(協働性評定値:Max60,Min10)

図3 

4歳~小学2年生までの4年間の自己調整評定値(自己調整評定値:Max42,Min7)

図4 

4歳~小学2年生までの4年間の言語得点(箱ひげ図)

協働性の中央値は30,34,37,40ポイントと年齢と共に少しずつ高くなっていっている。評定値の最高値と最小値の差は,4歳38,5歳36,小学1年生37,小学2年生42ポイントと,小学2年生では,5歳,小学1年生より差が広がっている。協働性の四分位偏差は4歳5.5,5歳3.9,小学1年生4.0,小学2年生4.0で,図2が示す通り,4歳と小学2年生では個人差が大きい。

自己調整の中央値は,協働性同様に年齢と共に上昇しているが,その伸びは緩やかである。自己調整の四分位偏差は,4歳3.0,5歳2.5,小学1年生4.0,小学2年生4.5で,4・5歳の幼児期に比べて,小学1・2年生では個人差が大きい。本調査では,5歳以降小学2年生まで自己調整は伸びていることがわかった。

言語得点の中央値は,4歳から小学2年生まで,20.8,24.3,28.8,34.6ポイントと,協働性・自己調整と同様に年齢が上がるにつれて伸び,最高値は5歳で下がることなく伸びている。また,最高値は4歳から5歳へ,小学1年生から小学2年生にかけて大きく伸びている。また,言語得点は最小値と最大値の差が4歳では23.3と一番小さく,5歳32.3,小学1年生34.3,小学2年生33.3ポイントと,個人差も大きい。

〈協働性と自己調整〉は4歳から小学2年生までの4年間とも相関係数が0.43~0.50と正の相関があったが,〈協働性と言語〉は−0.04~0.14,〈自己調整と言語〉は0.05~0.19と,ほとんど相関はないことがわかった。

協働性,自己調整の評定最高値は,5歳で4歳より下がり,評定値のばらつきも少なく収束している。これは,5歳児が,幼稚園や保育園での最年長児として期待され,協働性や自己調整が求められたこと,また,発達とともに他者理解が進んだことで人を意識した振る舞いを身につけたこと,そして,終了までに育って欲しい姿を反映した園のカリキュラムや保育者のかかわりや子ども理解の影響もあることも考えられるが,本研究ではこの点については検証できず,今後の課題としたい。

P15群「低低低高」の子どもの変容:協働性の評定値総計の四分位数中央値を基準として高群・低群と二分し,318人の子どもたちの協働性と自己調整が4年間でどのように変容したのかを示したのが表3である。そのバリエーションは,P1群「高高高高」からP16群「低低低低」までの16種類に分類された。

表3  318人の4歳から4年間の協働性・自己調整の変容(;高群,低:低群)
P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 P10 P11 P12 P13 P14 P15 P16
4歳
5歳
小学1年生
小学2年生
協働性(人/318人) 28 15 20 19 21 24 11 9 12 23 10 23 17 20 20 44
自己調整(人/318人) 38 24 24 17 24 10 15 13 16 17 15 17 16 25 23 24

協働性は,全体平均では協働性は年齢が上がるごとに徐々に伸びているにも拘わらず,318人の中でP16群「低低低低」が44人(13.8%)と一番多かった。そこで,4歳から小学1年生まで協働性低群で,小学2年生になって「高」群へと協働性が伸びたパターンP15群「低低低高」の子どもたち20人の課題に取り組む様子の映像・評定値の変容に着目し,協働性の伸びがみられる要因がどこにあるのかを検証することとする。

協働性P15群「低低低高」の20人は,小学1年生まで低群ではあるものの,〈4歳から5歳〉は平均11.2,〈小学1年生から小学2年生〉では平均13.7と伸び,〈5歳から小学1年生〉で一度評定値が下がっており,全体の協働性の変容とは違ったパターンを描いている。また,このうち9人は〈5歳から小学1年生〉で低群の中ではあるが1~7ポイント上昇しており,11人は,5歳から小学1年生で伸びがみられなかった(20人中減55%,増45%/318人中では減30.5%,変化無し5.7%,増63.8%)。この群は,低群の中での上昇→降下及び上昇→停滞の後,高群へと飛躍するパターンを描いており,低高それぞれの群内でのパターンの違いにも細かく分析をしていく必要性が示唆された。

(2) 一人一人の子どもの協働性・自己調整の4年間の変容

調査参加者318名の4年間の協働性の変容からP15群「低低低高」に着目し,P15群内においても個々のパターンが存在していることが明確となった。そこで,この節では,P15群に属する3名の子ども(E児,G児,T児)を取り上げ,ビデオ分析結果を踏まえて,彼らが実際にどのように課題に取り組んでいたのかについて考察していくことにする。

子どもE・G・Tの映像データから捉えた変容:協働性P15群「低低低高」の中で,協働性「5歳>小1」と「4歳<小2,5歳<小2,小1<小2」が特に顕著な子どもE・G・Tの3人を取り上げた。

まず,協働性尺度の項目別にみてみると,この3名はそれぞれ年齢毎に伸びている項目が異なっている。小学2年生で,協働性評定項目の[規範・ルール・マナー]と[集団調整力]は高くなってきているが,[共有]と[共感][受容]項目では伸びがあまり見られなかった。取り組みの中で簡単なルールを守ったり順番を待ったりはでき,友だちといっしょに何かをすることはできても,他者の気持ちを理解した上で関わったり話し合いながら課題達成に向かっていくことなどはまだ難しいと考えられる(図5)。4歳,5歳,小学1年生,小学2年生それぞれで,課題に取り組む様子の映像から起こした逐語記録(言動,態度,表情なども含めて)をもとにした小グループ内でのE児,G児,T児は,4歳から小学1年生までは取り組みへの態度や発話数も様々であるが,小学2年生になると3人とも落ち着いて課題に取り組みながらグループ内の友だちへ声をかけたり教えたりするなど協働性が高くなっている様子があらわれていた。小学1年生までは取り組みの相手等の環境により個人の能力は異なるものの,小学2年生では様々な変化にも対応する力を獲得しているものと考えられる(表4~表6)。なお,表内には取り組みの様子を事例として記述し,調査グループ3人(Tの小学1年のみ4人グループ)の個々の協働性と自己調整評定値と言語得点を記した。なお,表内・文中の下線数値が該当児E・G・Tの評定値・得点である。以下,E児,G児,T児の課題取組の際の様子について考察を加える。

図5 

子どもE・G・Tの協働性評定10項目別4年間の変容

表4  女児Eの4年間の協働性と自己調整の変容(本人とグループメンバーの評定値,映像要約)
協働性と自己調整 4歳 5歳 小学1年生 小学2年生
3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整
E本人 低20 低17 E本人 低34 高28 E本人 低31 低23 E本人 高44 低28
E-2 低16 低17 E-4 低30 低23 E-6 低35 低24 E-8 高47 高31
E-3 低19 低17 E-5 低28 高30 E-7 低31 低27 E-9 高43 低27
取組みの様子 Eも他の2人も殆ど発話もなく,ひとつの積み木をそれぞれが自分の前で触りながらボードに肘をついて座ったまま。 Eは殆ど発話もない。他の2人といっしょに取り組みたい気持ちはあるようだが難しい。他の2人が完成させる。 どんどん進める2人に,Eも「違う」「そうかな~」などの言葉を返すが,作成は難しい様子のまま時間終了。 課題に取り組みたい気持ちがEにずっとある。「なんか違う」「白が入らないって」「ここ作らないと」など他のメンバーへの発言も出ている。

※協働性評定値:Min10~Max60,自己調整評定値:Min7~Max42

 

表5  女児Gの4年間の協働性と自己調整の変容(本人とグループメンバーの評定値,映像要約)
協働性と自己調整 4歳 5歳 小学1年生 小学2年生
3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整
G本人 低18 低21 G本人 低30 低24 G本人 低27 低20 G本人 高47 高31
G-2 低20 低18 G-4 低34 低24 G-6 高39 高31 G-8 高44 低28
G-3 低16 低21 G-5 低25 高27 G-7 高39 高33 G-9 高43 低27
取組みの様子 開始の合図でGは一瞬始めようとしたが,他の2人同様に発言も動きもほとんどないまま終了。 取り組む意欲は見えたが,3人のうちの1人がしたがるのでGは任せることにする。そっと積み木の修正を行う。 課題への取り組みも,友だちとの関わりもないまま,終始俯いたまま終了。 Gはグループの2人それぞれに「白いのがいる」「もうちょっと近づけて」などの言葉や友達の腕をそっと触って教えたりしながら取り組む。

※協働性評定値:Min10~Max60,自己調整評定値:Min7~Max42

 

表6  男児Tの4年間の協働性と自己調整の変容(本人とグループメンバーの評定値,映像要約)
協働性と自己調整 4歳 5歳 小学1年生 小学2年生
3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整 3人
グループ
協働性 自己調整
T本人 低23 低17 T本人 低24 低20 T本人 低22 低20 T本人 高42 高26
T-2 低23 低16 T-4 低29 低26 T-6 低21 低21 T-9 高41 低23
T-3 低22 低17 T-5 低32 低26 T-7 低29 低24 T-10 低32 低24
T-8 低28 低24
取組みの様子 三人は,自分の前に積み木を置いていく。Tは集中できず,難しいを連発。 環境のせいもあるかもしれないが,立ったり座ったりを終始繰り返したり,積み木を投げたりと乱暴な面が目立った。 Tはふざけたり,友達への強い口調でいったりするのが目立つが,課題に取り組んでいる。 面白いことを言って皆を笑わせたり場を和ませながら,「なんか長くない?これより」などと他の2人をリードしてどんどん作っていく。

※協働性評定値:Min10~Max60,自己調整評定値:Min7~Max42

【女児E(1月生まれ)】

4歳の3人グループでの積み木課題への取り組みの際には,女児Eは10分間殆ど無言で,どうして良いのかわからないように所在なさ気にしていたが,終了間際に少し乱雑に積み木を箱内に投げ入れる様子があった。5歳のEは,課題に取り組もうとする気持ちはあるようだが発話も行為もあまりないままで,グループの他の2人が静かに作り進め,時間内に完成させた。小学1年生では,グループの積極的な他の2人に「Eも,しー(して)」「作りーなー」などと言われるが,Eはあまり気にする様子はなく「へっ」と言って返すなどひょうきんな面や友だちに「違う」と指摘することも出てきていた。小学2年生では,課題遂行は難しいようだが,友だちに自分から話しかけたり積み木を動かしたりながら,最後まで課題に取り組んでいた。Eの語彙検査の得点はP16群「低低低低」であり,4年間ともグループの中でも最低点である。しかし,認知面に課題達成は難しいようではあるが,小学2年生になると「なんか違う」「白が入らないって」「ここ作らないと」などと友だちに話しかけ,一緒にしようとする姿が見られた。わからなくてもすぐに諦めたりせずに,わからないなりに友だちに語りかけいっしょに課題に向かっていこうとする姿勢がEの認知的スキルの低さを補い,協働性評定値も高くなっている要因と考えられる。

【女児G(10月生まれ)】

女児Gは4歳から言語の語彙得点が高いが,相手に遠慮した様子で取組み中の発語がほとんど無い。5歳では積み木を置いたり写真を見て確認したりしながら進めようとするが,グループ内の1人の子どもG-5に「まだ」「待って」「やめて」などと続けて言われると,「G-5ちゃんにやらせてあげよう」ともう一人の子どもG-4に言ってG-5に任せ,Gは積み木の置き方の修正をするぐらいであった。小学1年生には,積み木にも触らず終始俯いたまま正座してひと言も発しておらず,小学1年生での3人グループの協働性は〔27,39,39〕,自己調整〔20,31,33〕,言語は〔31.5,30.3,24.4〕であり,グループ3人の中でも言語得点は高いものの協働性と自己調整は一人だけ低い評定である。しかし,小学2年生では協働性〔47,44,43〕,自己調整〔31,28,27〕,言語〔36,31.2,31.7〕と3人の中でいずれも一番高く,いっしょに課題に取り組んでいる相手の腕をとんとんと触ったり,積み木を実際に置いたりして教えながら進めていくなど,Gは相手の様子に合わせた関わりを行いながら課題達成に向けて意欲的に取り組んでいた。Gの5歳と小学1年生では自己抑制が強く働き,本来のGの持っている個人能力が発揮できていない様子が窺える。4年間のGの姿から,協働性と自己調整能力がバランス良くかみ合ってこそ,本来その子どもが持っている認知能力を発揮できると言えるのではないだろうか。

【男児T(3月生まれ)】

男児T は,4歳から小学1年生までの3年間は本調査の取組みの短い時間の中では終始落ち着かず,積み木の扱いも乱暴だったり友だちへの口調も強く自分の言いたいことをずっと口にしたりしていた。しかし,小学2年生では,よく話したりふざけたりする姿は変わらず見られたが,Gの発語は場の雰囲気を楽しいものにしている。友だちに教えたり励ましたりとグループの中心的存在となっており,協働性は4歳23,5歳24,小学1年生22,小学2年生42と,小学2年生で大きく伸びている。しかし,小学2年生での取り組みの後半には,「違う」「ちょっと待って」とTが何度も言うものの行為を止めなかった友だちの腕を思わず摑み「痛い」と言われる場面もあり,Tの4年間の自己調整評定値はP16群「低低低低」である。また,実際の取り組みの中でTは4年間とも発語の非常に多い子どもだったが,言語得点はP16群「低低低低」と,言語得点には結びついていない。しかし,独り言のように話し続けていた小学1年生までのTとは異なり,「緑の次白ね」「あとでね,これが終わってから」とグループ内で提案したり教えたり,友だちの間違いにも「なんで壊すのかしら~」「ここじゃないよ,ここ」など,小学1年生までの強い口調から楽しい雰囲気で伝えるようになっている。

友だちのことを思いやり,我慢したり自分のやり方を調整したりするなど,情動的な側面が育つことによって,課題達成に向けて取り組んでいくことができると考えられる。

4. 総合考察

幼児4歳から小学2年生までの4年間を追った本研究では,協働性や自己調整の評定値,言語得点の318人の四分位数の中央値は,年齢が上がるにつれて徐々に上昇していた。また,〈協働性と自己調整〉には正の相関があるが,〈協働性と言語〉〈自己調整と言語〉には,相関はほとんどみられないことが明らかとなった。さらに,協働性と自己調整は評定値の最高値と最小値の差は,4歳と小学2年生では広く,5歳では評定最高値が4歳より下がり,得点のばらつきも一旦収束する。これは,年長児5歳が小学就学前までともに過ごしてきた中で友だちとの関わりが深まっていることや,園の最年長児としての役割や期待などが影響して,友だち同士での関係のあり方・特色が強まっていることが考えられる。また,同時に,幼児期終了までに育つ姿の中に協働性の育ちが明確に意識された表れとも推察できる。

参加者318人の協働性と自己調整の評定値を四分位数の中央値で二分して高群と低群に分けると,「高高高高」,「低高高高」「高低高高」群などの16の変容の種類に分類された。協働性と自己調整は全体的には成長発達に伴って伸びていっているものの,子ども一人一人を見ていくと,年齢が上がるにつれて伸びたり停滞したり下がったりと,個人によって様々であることが明らかとなった。

これら,協働性や自己調整の5歳の年齢的特徴や,4年間の変容が一人一人異なり一定の発達曲線を描くことができないことから,小学校への接続期における子どもの社会情動的スキルの発達段階を捉えるには更なる検証が必要となること,また,改めて一人一人に応じた人とのかかわり方を支える質の高い保育・環境の必要性が示唆された。

更に,協働性の変容「低低低高」群20人の中でも,4年間の変容が特に顕著なE児,G児,T児3名それぞれが少人数で課題に取り組む映像データを分析すると,調査グループ構成メンバーの関係性や環境が,子どもの協働性や自己調整に影響を及ぼしている可能性は排除できないものの,小学2年生になると,それらに左右されずに,友だちと良好な関係を築きながら課題に取り組む姿が見られた。言語得点の高低に拘わらず,他者と楽しく関わる中でこそ協働性が高くなっている3名の姿から,わからないことがあってもすぐに諦めたりせずに,わからないなりに友だちに語りかけいっしょに課題に向かっていこうとする姿勢が,言葉では表しきれない関係性を補う一端が見られ,協働性と自己調整能力に代表される社会情動的スキルと言語能力に代表される認知能力との関係性を検証していく必要性が示唆された。

しかし,3名共に小学2年生での協働性が高群になったとはいえ,協働性評定値を項目別にみると,小学2年生における協働性評定項目の[規範・ルール・マナー]と[集団調整力]は高くなっているが,[共有]と[共感],[受容]では伸びはまだあまり見られなかった。このことは,協働性に含まれるそれぞれの要素が人とかかわる際にどのように共鳴し合うのかによって,子どもたち同士の関係性が変容することを示唆しており,協働性の各要素についての詳細分析をしていく必要性が明示された。

以上より,我慢したり他者への気持ちを思いやって自己調整したり,友だちといっしょに課題に集中して取り組もうとする意欲・姿勢などの社会情動的スキルは,他者との関わりの中で一人一人異なる変容を示しながら少しずつだが着実に育っていくこと,また知的能力の育ちとは関連があるものの,また別の様相を示すことが明らかとなった。

5. 今後の課題

社会情動的スキルは一人一人異なる育ちを見せることを鑑みれば,本稿の協働性「低低低高」群3人の分析では限界がある。他のP群や分析対象児3名以外の子どもの変容や,自己調整の評定値の変容を中心とした映像データの解析を行い,協働性と自己調整,言語発達の関係性をより詳細に分析することが必要である。今回,16種類に分類される4年間の変容のうち,協働性「低低低高」群の3人について分析したが,それはその子ども特有の発達の姿なのか,その変容の型の中での特徴的なものなのか,また,他の変容群の子どもの分析を調査方法の検証も含めて研究を進めていきたい。

さらに,言語は4歳から小学2年生までの4年間発達し続けるのに対して,協働性と自己調整が5歳で一旦収束する傾向にあることが明らかとなったが,園環境・保育の質とどのようにかかわりがあるのかまでは,本稿では分析できていない。小学校高学年での調査による実態把握・分析をおこない,幼児期の教育・保育環境の質がどのように協働性・自己調整の伸びに関連しているのか,社会情動的スキルがどのように育って行くのか,育つ上で保育・教育に必要なものは何か,その様相を明らかにすることを今後の課題とする。

謝辞

調査にご協力くださった全国の幼稚園,保育所,小学校と子どもたち,そして観察者としてご尽力くださった保育経験者,院生・ゼミ生の皆さまに,厚く御礼を申し上げます。

注1)  平成23–27年度文部科学省科学研究費基盤研究(A)「保育・教育の質が幼児・児童の発達に与える影響の検討(研究代表者:秋田喜代美)」(課題番号23243079)

文献
  • 1)  OECD. Starting Strong IV: Monitoring Quality in Early Childhood Education and Care. 2015.
  • 2)  文部科学省.中央教育審議会 幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申),2016.
  • 3)  前掲1).
  • 4)  秋田喜代美.子どもの未来につながる力を幼児期から育む.ベネッセ教育総合研究所,2015.
  • 5)  文部科学省.幼稚園教育要領.2017.
  • 6)  厚生労働省.保育所保育指針.2017.
  • 7)  内閣府・文部科学省・厚生労働省.幼保連携型認定こども園教育・保育要領.2017.
  • 8)  経済協力開発機構(OECD)(編著).ベネッセ教育総合研究所(企画・制作).無藤隆,秋田喜代美(監訳).荒牧美佐子,都村聞人,木村治生,高岡純子,真田美恵子,持田聖子(訳).社会情動的スキル 学びに向かう力.明石書店,2018.
  • 9)  前掲5).
  • 10)  前掲6).
  • 11)  前掲7).
  • 12)  前掲5).
  • 13)  Brinkley M, Erstad O, Herman J, Raizen S, Ripley M, Miller-Ricci M, Rumble M. Defining Twenty-First Century Skills. Assessment and Teaching of 21st Century Skills, 2011, 17–66.
  • 14)  UNESCO. Incheon Declaration Education 2030: Towards inclusive and equitable quality education and lifelong learning for all, 2015.
  • 15)  OECD. The Future of Education and Skills: Education 2030, 2018.
  • 16)  前掲1).
  • 17)  前掲1).
  • 18)  鈴木正敏,森暢子,門田理世,箕輪潤,野口隆子,上田敏丈,中坪史典,芦田宏,秋田喜代美,無藤隆,小田豊.幼児のパターンブロック課題解決方略の検討(3)〜4歳から6歳までの方略の推移に着目して〜 日本乳幼児教育学会第23回大会発表論文集.2014, 167–168.
  • 19)  森暢子,鈴木正敏,門田理世,芦田宏,野口隆子,箕輪潤子,上田敏丈,秋田喜代美,小田豊.幼児のパターンブロック課題解決方略に関する研究(4).日本保育学会第68回大会発表論文集.DVD, SBM000574-1.pdf. 2015.
  • 20)  Sylva K, Melhuish E, Sammons P, Siraj-Blatchford I, Taggart B. The Effective Provision of Pre-School Education (EPPE) Project: Final Report. London: DfES/Institure of Education, University of London, 2004.
  • 21)  柏木惠子.幼児期における「自己」の発達 行動の自己制御機能を中心に.東京大学出版会,1988.
  • 22)   高橋 登, 中村 知靖.適応型言語能力検査(ATRAN)の作成とその評価.教育心理学会 2009; 57: 201–211.
 
© 2020 九州産業大学
feedback
Top