2020 年 2 巻 p. 64-73
本研究では,幼児期前期の歩行に着目し,家庭内環境や外出時の移動手段,身体活動や歩行に関する保護者の意識など,歩行を取り巻く生活環境の実態把握を行うことを目的とした。1歳児(n=34),2歳児(n=53),3歳児(n=33),の合計120名の保護者を対象に,歩行を取り巻く生活環境に関する自記式の質問紙調査を実施した。その結果,子どもが保育園降園後に外出する理由としては,買い物等の親の外出に伴う外出が最も多く,外出時の移動手段については大人が状況に応じて決定する傾向にあった。ショッピングカートの利用時間については,約7割の家庭が買い物に費やす8割以上の時間をショッピングカートに子どもを乗せていた。保護者は外出時の幼児の歩行について身体活動を促進する機会として捉えにくい傾向にあった。
This study focuses on walking during early childhood to find out the actual status of living environment surrounding infants, such as domestic setting, means of transportation outside the home, physical activities and guardians’ awareness concerning walking, etc. The study had 120 participants, who are guardians of one-year-old (n=34), two-year-old (n=53), and three-year-old (n=33) infants in the steady walking stage enrolled in nursery classes for zero-year-old, one-year-old, and two-year-old children. Through the research, awareness of the importance of an environment and outside transportation means that encourage walking were identified to be insufficient, while most of the guardians understood the importance of physical activities in early childhood. Infants went out after nursery hours mostly because they accompanied parents who needed to go shopping or do other things. Accordingly, the infants’ modes of transportation were determined by the parents’ convenience. A comparison of time spent on shopping carts and strollers found strollers being used for longer hours in total, while shopping carts occupied more than 80% of the time spent on shopping.
社会の変化に伴って幼児期の身体活動は減少の一途をたどっている。幼児の身体活動の減少については,わが国に限ったことではなく,先進国共通の深刻な問題として受け止められており1)2),WHOでは幼少年期に必要な身体活動の基準を提示し,その実施を呼びかけている3)。
身体活動は,心身の健康の維持増進,体力の向上,疾病予防に寄与するが,特に幼児期の身体活動については,これ以外にも身体活動を通して,コミュニケーションスキル,認知・非認知的能力の発達,社会性の獲得等が培われるため,幼児の発達に非常に重要な役割を果たす4)。
わが国では2012年には文部科学省によって幼児期運動指針が策定され,7年が経過した。そこでは,神経系機能の発達が著しい幼児期に外で遊ぶ習慣を身につけることで,運動習慣の基礎ができ,その後の体力向上につながる5)とされ,現在・未来の健康づくりに限らず,子どもの心身の発達にとって大きな役割を果たすこと4)が示されている。ところが,0・1・2歳児についてはこれまで,発達の順序や方向性については明らかになっているものの,それらを達成するための0・1・2歳児における身体活動を取り巻く環境についてはあまり明らかにされていない。
Gallahue6)は3歳に達するまでの時期を「初歩的運動の段階」と定義づけているが,この初歩的運動の段階は観察される動作の種類も極端に少なく,その動作の質も非常に未熟である。とはいえ,この時期は,探索活動が盛んになる時期であり,這う,歩く,走ることに伴う行動範囲の拡大により,身体活動も質・量ともに拡大する7)。そのため,3歳未満児の身体活動は,その後の身体活動の基礎となり,発達における重要な役割を担っているといえる。小林8)は,幼児の体力低下はすでに3歳未満で生じているとし3歳以下の身体活動に着目する重要性を指摘している。また,1・2歳児において,身体活動を好まない子どもは座位で過ごしがちな子ども(Sedentary Child)であることも確認されている9)。
このように,乳児期または幼児期前期(以下幼児期前期に乳児期も含む)にはすでに,生育の背景や環境の違いから身体活動への親和性に差異が生じていると考えられる。幼児期後期においては,体を動かす環境が広い(屋外)こと,体を動かす頻度が高いこと,また親や兄弟,友人と遊ぶ頻度が高いことが,幼児の運動能力に影響を及ぼすなど,家庭環境と運動能力発達の関連性が指摘されている10)。また,2歳児クラスから年長児クラスを対象として幼児期の身体活動に影響を及ぼす親の態度について調査した研究からは,親の自己効力感,身体活動好意度,身体活動の重要性の認識,子どもの食事に関する生活習慣への配慮が,子どもの身体活動推進に影響することが明らかになっている11)。加えて,歩行動作の獲得過程や発達に関する研究は散見される12)~14)ものの,前述の通り幼児期前期では,観察される動作は極端に少なく,幼児期前期に身体活動に親しむ姿が培われる要因については十分に明らかになっていない。
そこで本研究は,0・1・2歳児クラスに在籍する乳幼児の内,歩行が確立している乳幼児の保護者を対象として,幼児期前期の歩行に着目し,家庭内環境や外出時の移動手段,運動や歩行に関する保護者の意識など,歩行を取り巻く生活環境の実態把握を行うことを目的とする。
A市内の3園の保育所・保育園の0歳児・1歳児・2歳児クラスに在籍する園児の保護者198名を対象に質問紙調査を行った。質問紙の回収率は約66.2%(0歳児3名,1歳児34名,2歳児53名,3歳児33名,123名)であった。そのうち,歩行が確立していない3名(0歳児)を除き,調査対象を120名とした。尚,調査を行った地域は,近年ベッドタウンとして発展し,人口が今でも増え続けている。また,公共交通機関を使ってストレスなく生活できるほどは交通機関が発展していないため,特に子どもがいる家庭や高齢者は車を使う頻度が高い。商業施設も多いが,自然にも恵まれている地方都市である。
(2) 調査期間2016年11月であった。
(3) 調査方法保護者に対して,幼児期前期の歩行を取り巻く生活環境に関する自記式の質問紙調査を,各施設の0・1・2歳児クラスの担当者に配布・回収を依頼した。その際,0・1・2・3歳児の中に兄弟姉妹がいる場合は,一番年齢が高い対象児について回答してもらうように依頼した。
(4) 調査内容基礎情報,家庭内での過ごし方,子どもの移動手段の利用状況,歩行に関する保護者の意識,運動に関する保護者の意識などについて調査を行った。
予備調査として0歳児,1歳児,2歳児を子育て中の保護者(いずれも母親)3名を対象に,家庭内での過ごし方,子どもの移動手段,運動に関する意識についてインタビュー調査を実施した。インタビュー調査後,保育士1名と筆者で協議の上,子育ての現状に最も沿うと考えられる内容を基に質問項目として設定した(資料参照)。
(5) 分析方法統計解析ソフトは,SPSS Statistics 23およびエクセル統計2010 for Windows を使用した。
(6) 倫理的配慮調査は,保育所・保育園の園長に,文書および口頭で研究の目的・方法,園児の個人情報についてプライバシーの保護に努めること,参加については自由意思を尊重することを説明し調査実施の承諾を得た。承諾が得られた後に,保護者宛に研究の趣旨,目的,方法,プライバシーの保護,自由意思を尊重することを説明する文書と質問紙を封筒に入れて配布し,記入を依頼した。質問紙は封筒に入れ,所定の場所に提出する方法とした。調査への同意は,調査票の回答および提出をもって行うこととした。質問紙の配布・回収は各施設の担当者に依頼し,調査依頼期間終了後に回収した。
本調査は,120名(1歳児34名,2歳児53名,3歳児33名)を対象に調査を行った。性別は全体でみると,男児58名(48.3%),女児62名(51.6%)である。身長・体重については,男児・女児ともにおおよそ平均的であるが,3歳児については2歳児クラスに在籍する3歳児のみを対象としているので,平均よりやや低い数値となっている。身長や体重に有意な男女差は認められなかった。
項目 | 内訳 | 値 |
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子どもの年齢 | 1歳児(名) | 34(28.3%) |
2歳児(名) | 53(44.2%) | |
3歳児(名) | 33(27.5%) | |
性別 | 1歳男児(名) | 15(46.9%) |
1歳女児(名) | 17(53.1%) | |
2歳男児(名) | 27(50.0%) | |
2歳女児(名) | 25(46.3%) | |
3歳男児(名) | 16(48.5%) | |
3歳女児(名) | 17(51.5%) | |
子どもの身長 | 1歳児平均身長 | 79.09(cm) |
2歳児平均身長 | 86.49(cm) | |
3歳児平均身長 | 93.44(cm) | |
子どもの体重 | 1歳児平均体重 | 10.37(kg) |
2歳児平均体重 | 12.11(kg) | |
3歳児平均体重 | 14.23(kg) | |
子どもの数 | 1人(名) | 39(32.5%) |
2人(名) | 51(42.5%) | |
3人(名) | 26(21.7%) | |
4人(名) | 4(3.3%) | |
続柄 | 第1子(名) | 60(50.4%) |
第2子(名) | 35(29.4%) | |
第3子(名) | 22(18.5%) | |
第4子(名) | 2(1.7%) | |
家族形態 | 祖父母と同居(名) | 16(13.9%) |
核家族(名) | 97(84.3%) | |
その他(名) | 2(1.7%) | |
同居家族 | 母(名) | 110(91.7%) |
父(名) | 104(86.7%) | |
祖母(名) | 16(13.3%) | |
祖父(名) | 12(10.0%) | |
兄妹(名) | 76(63.3%) | |
主な養育者 | 母(名) | 116(96.7%) |
父(名) | 1(0.8%) | |
祖母(名) | 3(2.5%) | |
母親年齢 | 15–19歳(名) | 2(1.7%) |
20–24歳(名) | 10(8.4%) | |
25–29歳(名) | 19(16.0%) | |
30–34歳(名) | 41(34.5%) | |
35–39歳(名) | 31(26.1%) | |
40–47歳(名) | 15(12.6%) | |
45–49歳(名) | 1(0.8%) | |
在園時間 | 平均時間 | 8時間25分 |
通園方法 | 徒歩(名) | 4(3.4%) |
自転車(名) | 2(1.7%) | |
自動車(名) | 100(84.0%) | |
その他(名) | 13(10.9%) |
家庭内の子どもの数については,平均1.95人であり,2017年度の合計特殊出生率1.43を上回る結果となった。対象となる乳幼児は,約半数が第1子であり,第1子第2子を合わせると全体の約79.9%となる。家族形態については,84.3%が核家族となっており,主な養育者については96.7%が母親となっていることから,全国的な傾向に違わず核家族の中で母親が育児に占める役割が大きい傾向にある。このような中,保育所に通う家庭の内,母親が仕事に復帰するのは出産後平均12.5か月で,育休を約1年間取得する家庭が43.0%であるが,産休後全く育児休暇を取得しない(できない)家庭も10.5%あり,育児休暇取得が1年以下の家庭は67.5%であった。母親の年齢は,30代前半が最も多く(34.5%),次いで30代後半(26.1%),20代後半(16.0%)であった。対象幼児の平均的な一日の在園時間は8時間25分(±1時間25分),保育園入所の時期は平均14.7か月(±8.6か月)である。通園方法は自動車の通園が84.0%を占めた。
(2) 家庭内での過ごし方について家庭での自由に動けるスペースについて図1,主観的な家庭での過ごし方について図2に示す。歩行を獲得したての1歳児でも70.5%の家庭で,3歳児では81.8%の家庭が,家じゅう自由に動いて生活していることがわかる。しかし,4畳以下の指定されたスペースで過ごすことが多い家庭は,1歳児で17.6%,2歳児で11.3%,3歳児で12.1%存在している。
子どもが自由に動けるスペースについて
主観的な家庭での過ごし方
家庭のスペース利用に対する理由を自由記述からまとめると表2のような意見が挙げられた。「何も置いていない部屋がある」など,危険な環境が取り除かれた十分に体を動かすスペースがある家庭が1件あったが,それ以外は危険なものを子どもの手の届かないところに移動させるなど,何らかの配慮や工夫をしながら事故が発生しないように子どもが活動できる環境づくりの工夫が見られた。しかし中には,安易に安全な環境を求め過ぎる例や,子どもの身体活動を著しく制限することにより,危機回避能力が学習されにくい環境と思われる例もあり,安全な環境と身体活動を促す環境との丁度良いバランスを発達に応じて調整していく必要がある。
自由に動けるようにしている | 子どもが嫌がる(走り回りたがる,外に出たいと訴える) |
スペースをとれる広さがなくて仕方なく | |
しつけによって危ない場所は理解している | |
危ない場所・物などがないように環境を整備して(物を置かない部屋があるも含む) | |
危険を知る必要があるという思いから | |
子どもが判断できる(発達段階である)から | |
運動量を考慮して | |
大人の目が多いため | |
兄妹が面倒を見てくれる | |
理由はない | |
スペースを限定している | 大人の目がいつもあるわけではないから |
サークルに入れておくと家事がはかどるから | |
事故に遭わせたくないから | |
家族の要望があるから | |
ずっとベッドかサークルに入れているから | |
環境が整えづらいから(段差が多い,危ない場所が多いなど) | |
兄妹が走り回って危ないから | |
理由はない |
幼児期前期の歩行動作の開始時期は,乳幼児間で最大8カ月も異なるとする研究もあり14),歩きの発生・巧みさなどの発達には個人差が大きい。また,同論文では,5歳児以上でも成人とは異なる歩行であり,幼児期前期の歩行は安定していないと言える。さらに,歩行が開始されると,転落・やけど・誤飲・窒息・感電・おぼれ等,事故が急増する15)。少子化,核家族化,社会生活や住宅事情の変化などから,例えばサークルや柵を設ける,姿勢を固定する椅子に座らせる,音・光・画像などで乳幼児の集中を長時間引き付ける,など,能力的に歩行が可能となっても事故予防のために子どもの自由な身体活動を制限するための商品も多く開発・販売されている。子どもの自由な身体活動と事故予防との狭間で葛藤する場面は,家庭のみならず保育所等の施設でも考えられる。しかし,幼児期前期に興味関心に支えられた十分な身体活動が制限されてしまうことによって,基礎的な運動動作の獲得が遅れたり経験できなかったりするだけではなく,幼児期前期なりの学びを阻害することにもなりかねない。幼児期前期の子どもにとって,安全な環境を整え身体活動を促すことの重要性を理解した大人の支援が欠かせないと言える。
(3) 子どもの移動手段の利用状況子どもの移動手段について検討するにあたり,子どもが外出する理由を尋ねたところ図3に示す結果となった。子どもの年齢間で有意差はみられず,どの年齢においても最も多かったのは,「日常生活で必要(買い物など)なとき」であったが,「子どもの楽しみのため」や「家族で楽しむため」といった回答も半数以上の家庭でみられ,大人の都合につき合わせて外出しているだけではなく,「子どものため」に外出していることも多いことが分かる。
外出理由
子どもが外出する理由としては,買い物等の生活に必要な外出が最も多いということが図3から示されたが,外出時に子どもが歩かず,ショッピングカート,ベビーカー,抱っこやおんぶ,などに拘束される理由として最も多かった理由は,大人の利便性や時間的な都合が優先される場合であることが自由記述から明らかになった。特に「買い物」するときに用いる「ショッピングカート」については,買い物中に子どもを運ぶ用具を自宅から運んでくる手間もいらず外出先で手軽に利用できるため,保護者にとって利便性が高い移動手段と言えよう。最近は,キャラクターの形のものや乗り物の形のもの,おもちゃやゲームが一体となった形のショッピングカートも多くみられ,子どもにとっても魅惑的な乗り物となっているため,子どももショッピングカートに乗り続けることが苦ではないのかもしれない。ショッピングカートについては,図4から「時々利用する」「利用できるときはいつでも」を合わせた「利用する」保護者の方が,「ほぼ利用しない」「全く利用しない」を合わせた「利用しない」よりも有意に多い(P<0.01)ことが明らかとなった。
ベビーカー・ショッピングカートの利用頻度
一方でショッピングカートは利用目的が買い物の時間に限られるが,ベビーカーの利用目的は多岐にわたる。利用する状況で多かったものとして,「外出時間が長くなる時」「保護者の身体的理由」「子どもが寝た(寝せたい)時」「兄弟が多く目が届かない時」「子どもが歩かない(疲れて乗りたがる)時」「荷物が多い時」「周りの環境に危険が多い時」「周囲に迷惑をかける時」などが挙げられた。ベビーカーについて本研究では,自分が所有するベビーカーの利用か,設置してあるベビーカーの借用かは問うていないが,近年様々な施設に貸し出し用のベビーカーの設置が進み,自宅から持ち出さなくても貸し出しがある場だけ利用することもできる。図4から,利用頻度はショッピングカートより低く,「ほぼ利用しない」「全く利用しない」を合わせた「利用しない」保護者の方が,「時々利用する」「利用できるときはいつでも」を合わせた「利用する」家庭よりも若干上回っているが有意差はみられなかった。また,ショッピングカートと比べると,「特に決めていない」と回答した家庭が多くみられ,その時々の状況や外出用件に応じてベビーカー利用を行っている様子がみられた。
その上で,移動手段を利用するときに一緒に外出する相手について見てみると,図5に示す結果が得られた。保護者が一人での外出する際にショッピングカート(P<0.01)・ベビーカー(P<0.05)を利用する場合が他の項目より有意に多いことから,子どもが自由に動けることへの配慮よりも安全・機能・効率などの面から移動手段を利用せざるを得ない状況が推測される。さらに図6に示すように,ショッピングカート利用時間については69.1%の家庭が買い物の時間の8割を超えて利用していることが分かった。
ベビーカー・ショッピングカート利用時の一緒に外出する相手
ベビーカー・ショッピングカートの一回の利用時間の割合
一方でベビーカーの利用時間については「子どもが乗りたいとき」に利用することが多いが,前述のようにベビーカーを利用する際には多くの利用目的が考えられるため,効率性・利便性以外にも,大人と子どもの生活リズムの違いによるものや,安全や周囲に対する配慮などの理由が複層的に挙げられ,保護者が周囲や子どもの状況に応じて,利用したり歩いたり大人に抱えられたりしながら利用時間をコントロールしつつ利用している様子が伺える。
だっこ,おんぶについては(図7)「時々する」が最も多く,理由として,子どもが歩くことやショッピングカート,ベビーカーの利用を拒んだ際や,歩行が確立して間もない幼児の移動速度を時間的な制約から容認できない際などに行う場合が多い。しかし中には,親が子どもに歩くことを望んでも,祖父母が孫とのスキンシップを意図して歩いている子どもを抱きかかえてしまい親が不満に思うケースが,特に祖父母同居家庭に散見された。抱っこやおんぶは,道具がなくともできることから手軽ではあるものの,気づかないうちに習慣化してしまう恐れもあるため,同居の有無にかかわらず家庭で子どもの歩行について話す機会をもつことが望ましい。
だっこ・おんぶの頻度
歩行及び身体活動に関する保護者の意識について,結果を表3に示す。保護者の意識調査については,質問紙の特性として回答者が作成者の意図を推察して回答したり,主観的判断から回答を導いたりするなど,結果の取り扱いについては客観性の担保に限界があるため,統計処理を行わず結果の傾向のみの提示とする。体を動かすことが好きな保護者は半数を超え,「とてもそう思う」「まあそう思う」を合わせた 93.8%の家庭が,幼児期前期の身体活動は重要と考えていることが明らかとなった。一方で,子どもの身体活動量が十分と感じている保護者は「とてもそう思う」「まあそう思う」を合わせて半数を下回った。その上,外出時に子どもが歩ける機会を作った方が良いと感じると考えている保護者もそれほど多くはなく(「とてもそう思う」「まあそう思う」を合わせて46%),外出時に子どもを歩かせないことで身体活動量が減ると感じている保護者は「とてもそう思う」「まあそう思う」を合わせて35.2%とさらに少ないという結果であった。
とてもそう思う | まあそう思う | どちらとも言えない | あまりそう思わない | 全く思わない | ||
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外出時にベビーカー等を使用することで身体活動量が減ると感じるか | 1歳児 | 1.90% | 3.70% | 12.00% | 8.30% | 0.00% |
2歳児 | 3.70% | 13.90% | 10.20% | 13.90% | 2.80% | |
3歳児 | 0.00% | 12.00% | 9.30% | 4.60% | 0.90% | |
計 | 5.60% | 29.60% | 31.50% | 26.80% | 3.70% | |
外出時に子どもが歩ける機会を作った方が良いと思うか | 1歳児 | 4.60% | 9.20% | 10.10% | 3.70% | 0.00% |
2歳児 | 5.50% | 13.80% | 11.90% | 11.00% | 1.80% | |
3歳児 | 2.80% | 10.10% | 9.20% | 3.70% | 1.80% | |
計 | 12.90% | 33.10% | 31.20% | 18.40% | 3.60% | |
幼児期前期の身体活動は重要と感じるか | 1歳児 | 15.90% | 11.50% | 0.00% | 0.00% | 0.00% |
2歳児 | 25.70% | 15.00% | 4.40% | 0.00% | 0.00% | |
3歳児 | 14.20% | 11.50% | 0.90% | 0.00% | 0.00% | |
計 | 55.80% | 38.00% | 5.30% | 0.00% | 0.00% | |
子どもの身体活動量は十分と感じるか | 1歳児 | 2.70% | 9.90% | 12.60% | 1.80% | 0.00% |
2歳児 | 4.50% | 15.30% | 17.10% | 7.20% | 0.90% | |
3歳児 | 2.70% | 5.40% | 15.30% | 3.60% | 0.00% | |
計 | 9.90% | 30.60% | 45.00% | 12.60% | 0.90% | |
保護者は体を動かすことが好きか | 1歳児 | 8.20% | 7.30% | 7.30% | 1.80% | 0.90% |
2歳児 | 9.10% | 12.70% | 19.10% | 4.50% | 0.90% | |
3歳児 | 4.50% | 11.80% | 7.30% | 2.70% | 0.90% | |
計 | 21.80% | 31.80% | 33.70% | 9.00% | 2.70% |
このことから,保護者は子どもが身体を動かすことが必要と感じていながらも,「外出時の歩行」については重視されているとは言い難く,「歩く=身体発達や情緒・精神・認知機能の発達を促す行為」とは十分に認識されていない。スイミング教室,運動教室,サッカー・野球といったクラブチーム等,幼児期前期から参加可能な様々な「運動」が街中で見られ,保育所でも委託業者によるこれらの「運動」がなされている。しかし特に幼児前期には,遊びや生活の中に占める歩く・走る・かがむなどの運動が主であり,スクール等で行う運動時間を増やすよりも,初歩的な運動を多く経験することで心身の発達が促されるが,保護者は外出時の歩行については「身体活動」と認識しにくい傾向にあることが考えられる。
本研究では,歩行が確立している乳幼児の保護者を対象として,幼児期前期の歩行に着目し,家庭内環境や外出時の移動手段,運動や歩行に関する保護者の意識など,歩行を取り巻く生活環境の実態把握を行うことを目的とした。その結果,子どもが保育園降園後に外出する理由としては,買い物等の親の外出に伴う外出が最も多く,外出時の移動手段については大人の効率化や時間の都合によって決定されている傾向にあった。ショッピングカートの利用時間については,約7割の家庭が買い物に費やす8割以上の時間を,ショッピングカートに子どもを乗せていた。ベビーカーについては,買い物時の利用頻度はショッピングカートより低く,「利用しない」保護者の方が,「利用する」家庭よりも若干上回っている。ベビーカーについては,買い物以外の外出時に「安全のため」や「子どもを寝かせるため」という使用目的も明らかとなった。また, 幼児にとって日常生活に付随する身体活動(トイレ,買い物,散歩等)は有効な身体活動場面であると考えられる16)が,本研究では外出時の歩行が幼児期前期の身体活動量を促進するための機会として意識されていない傾向にあった。
2019年4月,WHOは5歳以下の子どもを対象に「Guidelines On Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep」17)を発表し,子どもの心身の健康と幸福を向上させ,肥満を防止するためには,幼児期の質の高い睡眠と,活発な身体活動,そして座りがちな時間の短縮が不可欠であることを示した。特に0・1・2歳では,継続して1時間以上同じところに固定しないことを提唱しており,これまでの「どれだけ動くか」という観点に加えて,「どれだけ動かない時間を減らすか」という視点で子どもの発達をみることが重要ということを示している。本研究は,幼児期前期の家庭における外出時の歩行について,保育園に通う子どもとその家庭を対象に調査を行ったが,身体活動は家庭だけで,もしくは幼児教育の専門家だけで行うべきものではなく,24時間の生活を通して子どもを取り巻く大人が連携しながら高め,健康な心身の発達を目指すものである。
幼児期前期は心身不可分であり,身体活動は生活そのもの言い換えることもできる。幼稚園教育要領,保育所保育指針,ならびに幼保連携型認定こども園教育・保育要領が,2017年の告示を経て2018年度から施行された18)。幼児教育においては,子ども主体の遊びや経験を通して自ら学ぶような学びに向かう力に重きが置かれ,特に非認知能力の芽生えとされる0歳児から2歳児までの記載内容が充実したことは,保育所保育指針の大きな改訂のポイントである。このように幼児期前期の育ちの重要性が注目される中,今後は身体活動を含む生活環境に関する研究が蓄積されることが望まれる。
また,本研究の限界として,1つに対象の地域が限定的で対象の人数も少ないこと,次に乳幼児の身体活動および運動に対する意識が保護者の主観に依るところである。実際の乳児・幼児期前期の身体活動や動作の測定・評価を,保護者の意識や生活環境と合わせて比較分析していくことが今後の研究課題として挙げられる。
本研究の調査にご協力いただいた保育所・保育園及び保護者の皆様に感謝申し上げます。
本研究はJSPS科研費16K17404の助成を受けたものです。