2020 年 2 巻 p. 82-90
本研究の目的は,複数対象追跡(Multiple Object Tracking,以下MOT)スキルと関連する要因を視覚探索方略,視機能,認知機能の中でも選択的注意力,情報処理速度の視点から検討することであった。実験参加者は平均年齢19.44歳の男子大学生25名であった。実験参加者のMOTスキルの測定にはNeuro Tracker式MOT課題を用いた。また,MOT課題の測定時には眼球運動測定装置を使用し,視覚探索活動も併せて測定した。なお,眼球運動指標は視線移動距離,停留回数,停留時間,停留点の移動速度を算出した。視機能測定は,スポーツビジョン研究会で用いられている静止視力などの8項目を採用した。認知機能の測定には,新ストループ検査IIを用いた。従属変数にMOTスキル,独立変数に眼球運動指標,視機能,認知機能を代入し,独立変数毎に重回帰分析を行った結果,視機能の中で瞬間的に情報を獲得する機能がMOTスキルと関連する要因であることが明らかになった。本研究で得られた知見は,MOTスキルトレーニング方法の拡充やその規定要因の検討に関して活用されるだろう。