2023 年 5 巻 p. 28-33
九州産業大学人間科学部は,人を支える人を育てる。そのためには,学生が良好な健康状態を維持することも大切だという認識のもとに,人間科学部1年生の生活習慣を調べた。2020,2021年度に調査を行い,445人から回答を得た。2/3超の学生が習慣的に30分超の運動をしていた。運動習慣を持つ頻度は,スポーツ健康科学科>子ども教育学科>臨床心理学科の順であった。スポーツ健康科学科ではスポーツサークルに所属し,週に5日以上運動する学生が多く,他の2学科では個人で週に4日以内の運動を続けていることが多かった。朝食を毎日摂り,早く寝て,早く起きる学生もスポーツ健康科学科に多く,これらの行動間に有意の関連があったが,通学時間とは無関係であった。すなわち,学生の健康行動は重複しやすく,居住地とは無関係である。これらは,効果的な健康教育を実施し,適切な健康行動を身に付けさせるうえで有意義な情報になる可能性がある。
We have a mission to bring up people who support the life of people by improving and maintaining mental and physical health. To achieve this goal, it is important for the students to maintain good health conditions of themselves. Based on this notion, we explored the lifestyles in the first year of the students of Faculty of Human Sciences, Kyusyu Sangyo University. Total of 445 students (93%) answered the questionnaire in 2020 and 2021. More than 2/3 students have a habitual physical exercise for >30 min. The frequencies of habitual physical exercise were in the students of Department of Sport Science and Health > Department of Childhood Education > Clinical Psychology. In Department of Sport Science and Health, many students belong sports circles and do physical exercises 5 days or more per week. Whereas, in other two departments, many students personally do physical exercises 4 days or less per week. The frequency of the students who eat breakfast every morning, who sleep early at night, who wake up early in the morning is also higher in Department of Sport Science and Health. There is statistically significant relationship among these lifestyles, suggesting overlapping of health behavior. These finding are valuable in implementing an effective health education.
九州産業大学人間科学部では,「こころ」と「からだ」を科学的に探究し,地域社会に貢献できる人材を養成することを目的としている。その目的達成のためには,本学部に所属する学生の心身の健康状態を維持することが大切である。運動1) 2) や朝食摂取3) 4) ,睡眠5) 6) は大学生の心身の健康状態に影響を与えていることが報告されている。そこで,学生には各自の健康を実現するために,運動習慣や朝食摂取の習慣を維持すること,十分な睡眠をとることを望みたいし,我々は,学生の生活様式の適切化或いは最適化に結びつくような教育を目指す必要がある。
大学教育では,運動習慣や朝食摂取の習慣が人々の健康に如何なる影響を及ぼしているか,睡眠がどれほど大切なものであるかという具体的なデータを示して,これらの意義を理解・納得させることが重要であろう。さらに学生の生活習慣を知り,どの点に焦点を当てた指導が望ましいかを検討することが必要なのではないか。そのように考えて,2020,2021年度の2年にわたって,人間科学部の全1年生が受講する「健康科学概論」の授業を利用して学生の生活習慣を調査した。本報告はそのまとめである。
2020,2021年度の九州産業大学人間科学部の1年生を対象とした。各年度の後学期に「健康科学概論」が開講され,1年生全員が受講する。初回の授業でレポートとしてアンケート形式の生活習慣調査を実施(図1)した。2020年度は223人,2021年度は222人が提出した。それぞれ93%,94%の提出率であった。他に17人の2年生,3年生が受講していたが,彼らの回答はこの論文に含めていない。
学生には,この調査の “正答” はなく,自分の生活を振り返ることを第一の目的とするので全てに回答するよう指示し,各年度の提出者全員の分析結果をグラフに表して返却する旨をアナウンスし,授業期間中に解説を付けて返却した。そのうえで,興味深い成績が得られれば個人が特定されない形で論文化して報告するが,自分の回答を外してほしければ,翌年3月に本科目の成績が報告されたあと,4月中に申し出るよう,口頭および文書で伝えた。これについては最終の授業でも念を押した。このように学生の自由な意思を尊重し,回答を論文に反映しない機会を設けたが,自分の成績を外してほしいと申し出た学生はいなかった。
(2) データ分析Web提出されたアンケートは,全てエクセルファイルに登録したうえで,回答を分析した。2020年度と2021年度では昼食摂取の時刻分布が異なっていた。2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡がりをうけ,多くの授業が遠隔で実施されたのに対し,2021年度にはコロナ禍は収束していないままで対面授業が増えたことが影響したと考えられた。他の項目には分布の差が見られなかった。そこで今回は昼食摂取の時刻分布を外し,両年度の回答を合わせて分析した。自分の身長や体重などが不明だという学生が相当数いて,これは別の機会に分析する。
運動や朝食摂取の習慣,睡眠に関する質問項目への回答に学科間や男女間で差があるかを検討するため,クロス集計表を作成し,χ二乗検定を行った。さらに,運動習慣や通学時間と朝食摂取の習慣や就寝・起床時刻との関連を調べるため,これらの間でのクロス集計表も作成した。必要に応じて残差分析を加えた。統計解析にはエクセル統計®(BellCurve社)を用い,P<0.05を有意とした。
この研究計画は九州産業大学倫理委員会の審査を受け,研究の実施について承認された(2019-0012号)。
表1に対象者の学科別,男女別の人数を示した。3学科ともほぼ同じ人数で,計445人であるが,男女の構成は異なっている。子ども教育学科と臨床心理学科では女子学生が多く,スポーツ健康科学科では男子学生が多い(P<0.001)。なお,質問項目によっては無回答が散見され,各質問項目への回答数は必ずしも445になっていない。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
男 | 46 | 56 | 114 | 216 |
女 | 104 | 84 | 41 | 229 |
合 計 | 150 | 140 | 155 | 445 |
全体の2/3超の学生が30分超の運動を習慣的にしていた。その半数近くはスポーツ健康科学科の学生であった(表2)。臨床心理学科では運動習慣を持っている学生が最も少なく,64人(46%)であった。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
していない | 67 | 76 | 16 | 159 |
している | 82 | 64 | 137 | 283 |
合 計 | 149 | 140 | 153 | 442 |
P<0.001
運動習慣の維持には性差があり(P<0.001),男性では164人(77%),女性では119人(52%)が運動習慣を有していた。スポーツ健康科学科で男子学生が多いことのみでは学科間の差を説明できなかった。すなわち,同学科の学生は男女とも高い割合で運動習慣を有していた。
運動習慣を有する学生のうち112人(41%)がサークル活動(学生が多用するのは “部活” という言葉であるので,本アンケートでも “部活” を用いた)を選ぶ一方,141人(52%)は個人で運動を続けていると回答した(表3)。サークル活動に参加している割合はスポーツ健康科学科で高く,他の2学科では個人で運動を続けている学生が多かった。表には示していないが,サークル活動に参加する割合は男子学生の方が女子学生よりも有意に高く(72人,46% vs 40人,35%),逆に個人で運動している割合は女子学生の方が男子学生よりも有意に高かった(67人,59% vs 74人,47%)。学外で運動している学生は少なかった。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
部活 | 12 | 8 | 92 | 112 |
学外 | 5 | 0 | 13 | 18 |
個人 | 58 | 54 | 29 | 141 |
合 計 | 142 | 138 | 150 | 430 |
P<0.001
運動の場と運動頻度を共に回答した262人についてみると,図2に示すように,個人で運動していると週に4日以下のことが多く,サークル活動(部活)に参加すると週に5日以上費やすことが多かった。
個人で運動していると週に4日以下のことが多く,サークル活動(部活)に参加すると週に5日以上費やすことが多い。
表4に示したように,3学科とも朝食を毎日摂っている学生が過半数を占めた。すなわち,子ども教育学科では88人(59%),臨床心理学科では80人(57%),スポーツ健康科学科では115人(75%)にのぼり,残差分析によれば,スポーツ健康科学科で朝食を毎日摂っていた学生は期待値より有意に多かった。一方,それぞれ19人(13%),27人(19%),15人(10%)の学生は朝食を食べないか,週1~2日摂るに過ぎないかであった。3学科間の分布の差は有意(P=0.0190)であった。朝食を毎日摂っている男子学生は146人(69%)であり,女子学生は137人(60%)であった。その分布に男女間の有意差はなかった。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
毎日摂る | 88 | 80 | 115 | 283 |
週5~6日 | 28 | 17 | 15 | 60 |
週3~4日 | 14 | 16 | 8 | 38 |
週1~2日 | 10 | 16 | 10 | 36 |
食べない | 9 | 11 | 5 | 25 |
合 計 | 149 | 140 | 153 | 442 |
P=0.0190
表5に示したように3学科とも23時前に就寝する学生は少なかった。残差分析では,スポーツ健康科学科では23~24時の間に就寝する学生が期待値よりも有意に多く,01時以降に就寝するか就寝時刻がバラバラだという学生が有意に少なかったのに対し,臨床心理学科では23~24時の間に就寝する学生が有意に少なく,01時以降に就寝する学生が有意に多かった。全体としても,3学科間の就寝時刻の分布には有意差があった(P=0.0032)。男女間には有意差はなかった。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
23時前 | 6 | 0 | 5 | 11 |
23~24時 | 38 | 28 | 56 | 122 |
24~01時 | 59 | 62 | 64 | 185 |
01時以降 | 20 | 27 | 13 | 60 |
バラバラ | 26 | 23 | 15 | 64 |
合 計 | 149 | 140 | 153 | 442 |
P=0.0032
表6に示した。スポーツ健康科学科では06時前に起床する学生が21人(14%)おり,残差分析によれば,期待値と比べて有意に多かった。臨床心理学科では6時前に起床する学生が有意に少なく,子ども教育学科では起床時刻がバラバラだという学生が37人(25%)おり,期待値より有意に多かった。全体としても,3学科間の就寝時刻の分布には有意差があった(P=0.0030)。表は提示しないが,男子学生では06時前に起床する割合が有意に高く,起床時刻がバラバラだという回答は女子学生に有意に多かった。その結果,全体としてみても男女間の就寝時刻の分布には有意差があった(P=0.0267)。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
06時前 | 8 | 5 | 21 | 34 |
06~07時 | 32 | 33 | 28 | 93 |
04~08時 | 48 | 51 | 66 | 165 |
08時以降 | 21 | 24 | 12 | 57 |
バラバラ | 37 | 26 | 24 | 87 |
合 計 | 146 | 139 | 151 | 436 |
P=0.0030
朝食を摂るためには,それだけの時間が必要であり,早く起床するだろう。時間をかけて通学する学生は,1時限目の授業に間に合うよう早く起きることも必要であろう。そのように考えた分析は以下の通りである。起床時刻と朝食摂取の関連は表7に示した。残差分析では,6時前に起床する学生では朝食を毎日摂る頻度が有意に高く,8時以降に起きる学生や起床時刻がバラバラだと回答した学生ではこれが有意に低かった。また,8時以降に起きる学生では朝は食べないと回答した頻度が有意に高かった。
毎日摂る | 週5~6日 | 週3~4日 | 週1~2日 | 食べない | 合 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
06時前 | 30 | 3 | 0 | 1 | 0 | 34 |
06~07時 | 63 | 13 | 9 | 6 | 2 | 93 |
04~08時 | 111 | 22 | 10 | 14 | 8 | 165 |
08時以降 | 28 | 8 | 7 | 7 | 7 | 57 |
バラバラ | 45 | 14 | 12 | 8 | 8 | 87 |
合 計 | 277 | 60 | 38 | 36 | 25 | 436 |
P=0.0206
通学時間の分布を3学科間で比べた。表8に示すように,1時間以内だと回答した学生はスポーツ健康科学科では117人(76%)であったのに対し,子ども教育学科では94人(63%),臨床心理学科では92人(66%)で,3学科間の分布には有意の差があった(P=0.0346)。
HC | HP | HS | 合 計 | |
---|---|---|---|---|
1時間以内 | 94 | 92 | 117 | 303 |
1時間超 | 54 | 48 | 36 | 138 |
合 計 | 148 | 140 | 153 | 441 |
P=0.0346
スポーツ健康科学科では朝食を毎日摂る学生も多かったので(表4),通学時間と朝食摂取の関連も調べた。通学時間が1時間以内の学生のうち187人(62%)が朝食を毎日摂っており,これは通学時間が1時間超の学生の95人(69%)と比べてほぼ同等で,通学時間の長短と朝食摂取の習慣の間には有意の関連を見いだせなかった。
最後に就寝時刻や起床時刻と運動習慣の関連を調べた。表には示さないが,30分超の運動を習慣的にしているか否かによって就寝時刻の分布は変わらなかった。起床時刻については表9に示したように,運動習慣がある学生の方が早かった(P=0.0065)。残差分析によれは,運動習慣があると6時前に起床する学生が有意に多く,8時以降に起きる学生は有意に少なかった。運動習慣があれば起床時刻がバラバラにはならないという傾向も窺われたが,有意ではなかった。
していない | している | 合 計 | |
---|---|---|---|
06時前 | 5 | 29 | 34 |
06~07時 | 29 | 64 | 93 |
04~08時 | 58 | 107 | 165 |
08時以降 | 29 | 28 | 57 |
バラバラ | 36 | 51 | 87 |
合 計 | 157 | 279 | 436 |
P=0.0065
本調査で明らかになったことの第一は,学生の多く―2/3超が運動習慣を有しており,しかも,子ども教育学科や臨床心理学科では運動習慣を持つ学生の多くがサークルに属さず個人で運動を続けていたことである。大学はサークル活動の奨励には力を注いでいるが,個人的に運動を続ける学生へのサポートは貧弱である。球技場のみならず,ストレングス&コンディショニングゾーン(トレーニングルーム)の使用についても,コロナ禍のもとでは学術・文科系サークル生や一般学生の利用は当面禁止であった7)。そのため,サークルに所属せずに運動を続ける学生が大学の運動施設を利用できる方法を検討する必要がある。
次に,学生の健康行動―運動習慣,朝食摂取の習慣,睡眠は重複しやすいということである。すなわち,スポーツ健康科学科の学生が他の2学科の学生に比べて運動習慣を高頻度に有しているのは,学科の特性として予測されることであったが,同学科の学生は全員ではないにせよ,朝食を毎日摂る頻度や,01時以降に就寝したり就寝時刻がバラバラであったりする頻度が低く,午前06時前に起床する頻度が高い。しかも,これらの間には有意の関連があった。なお,就寝前のスマホの使用が就寝時刻を遅らせている可能性を考えたが,ほとんど全員が使っていた。
なお,このような健康行動が将来の幸福な生活につながるかは今回の調査では分からない。これを明らかにするには,長期にわたる縦断的な検討が必要である。
総合すると,人間科学部の各学科間において,運動,朝食摂取,睡眠といった学生の生活習慣の差異は明らかであった。学部基幹科目として学生の健康を促進する試みは意義があると思われるが,今回の成績は,各学科の特性に合わせた教育の改善が必要であることを示唆する。