国際P2M学会研究発表大会予稿集
Online ISSN : 2432-0382
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2021 秋季
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国際建設合弁事業の成功・失敗要因に関する研究‐レビュー論文
*大谷 一人鴨志田 晃
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p. 1-19

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抄録
海外での大規模なプラント建設プロジェクトを実施する際、日本のエンジニアリング企業は該当国もしくは第3国の同業企業と国際建設合弁を組成して行うことが趨勢である。2015 年以降、米国を始めとして世界の主なプラント建設プロジェクトについて、米国内のプロジェクトは失敗、米国外のものはほぼ成功といえる事実が見られた。本稿では、その失敗の要因を、成功例とも比較して分析するにあたり、国際合弁の成果に関する先行研究を以下の観点から参照した。IJV(International Joint Ventures)の成果に与える影響について、(1)IJV の組織運営(2)リスクマネジメント(3)異文化での合意形成の3つの視点である。いずれの観点でも、JV 内の情報共有や合意形成が成否に影響を与えている事を示していた。しかし、IJV 成果への説明諸要因は様々な関係性メカニズムがあり、プロジェクトが遂行される環境の不確実性の下、それが調整変数として作用している。各説明変数は JV の意思疎通そのものであり、それに JV 内の信頼形成であり、行動の動機などの媒介効果や交互作用効果を多く含んで IJV の成果に影響を与えている。 本稿では P2M にあるプロジェクトリスクマネジメントの観点を中心にして、以下の 6 論文をレビューしたので報告すると共に考察するものである。 佐藤等[1]1及び安部等[2]2の研究はプラントエンジニアリング業界での国際合弁に言及して、そのリスクマネジメントでの成功・失敗に対しての見解を提示している。更に Kwok 等[3]3の研究では、国際合弁での成果を定式化している。この定式とは、上記の各説明変数と調整変数の相互関係を共分散構造式としてまとめたものである。それにより IJV の成果を定量化して説明している。ただし、本稿で言及しているように、国際建設合弁事業への有効性は今後の課題と思われる。 Peterson 他[4]4の論文では、日米合弁の限界を提示しているが、その具体的な運営の様態への言及がない。Farooq 他[5]5の論文では、P2M でも言及されているリスク評価の定式への限界を示めしている。これを国際合弁の入札段階での評価にもちいる意義を見出した。 Chan 等[6]6の研究は、システマティックレビューの方法にて、IJV 形成の動機やメリットなどに関連する先行研究を網羅している。しかし、日米合弁というテーマについては、言及が無い。以上の6つの先行研究について、IJV の成功要因の起点ともされる IJV 形成の動機の3要因を横断的に網羅した先行研究は見出されなかった。この限界を克服する3要因を統合しての今後のさらなる研究を進める意義とその有効性は大きいと考える。 国際合弁のプラント建設プロジェクト等を成功に導く有効なリスクマネジメントの方法を探索する起点として、これら既存研究のレビューを踏まえ、IJV の成功・失敗の要因分析としては、上記の3つの視点を統合した分析モデルを提示して、IJV の組織ガバナンスによる意思決定の解明が必要であると考える。すなわち解明すべき視点としては、リスクへの取り組みや JV 内で補完された資源の有効利用と内在する異文化等の差異の存在への配慮等である。
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