抄録
ITエンジニアの需要が高まる中、従業員の離転職は企業の盛衰に係わる重要な経営課題である。よって本研究ではITエンジニアの在職者数が最も多い情報通信業の転職希望意識の特徴を解明し、有効な対応施策を提言するため、情報通信業と製造業にそれぞれ所属するITエンジニアの転職希望意識の比較調査を実施した。
分析の結果、情報通信業のITエンジニアは製造業と比較して転職希望意識が有意に高いが、「仕事の意義と価値」「キャリアの展望」「収入の満足」に対する認識については有意差が確認されなかった。加えて情報通信業の「収入の満足」は転職希望意識に有意に負の影響を及ぼすが、製造業の場合、「仕事の意義と価値」に対する認識が有意に負の影響を及ぼすことが明らかとなった。
一方で情報通信業と製造業のITエンジニアの年収には大きな差はないこと、および転職希望意識に間接的に影響を与える先行条件(組織要因、キャリア支援、個人のスキル)から、情報通信業のITエンジニアの場合、上司からのフィードバックを通して収入に対する納得感を認識させることが転職希望意識の抑制に効くことが示唆された。