印度學佛教學研究
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『金光明経』に説かれる釈尊の法身獲得と衆生利益の接続
鈴木 隆泰
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2010 年 58 巻 3 号 p. 1178-1186

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抄録

筆者はこれまで,『金光明経』(Suvarnaprabhasa)の制作意図に関して以下の<仮説>を提示してきた.・大乗仏教徒の生き残り策としての経典:『金光明経』に見られる,従来の仏典では余り一般的ではなかった諸特徴は,仏教に比べてヒンドゥーの勢力がますます強くなるグプタ期以降のインドの社会状況の中で,余所ですでに説かれている様々な教説を集め,仏教の価値や有用性や完備性をアピールすることで,インド宗教界に生き残ってブッダに由来する法を伝えながら自らの修行を続けていこうとした,大乗仏教徒の生き残り策のあらわれである.・一貫した編集意図,方針:『金光明経』の制作意図の一つが上記の「試み」にあるとするならば,多段階に渡る発展を通して『金光明経』制作者の意図は一貫していた.・蒐集の理由,意味:『金光明経』は様々な教義や儀礼の雑多な寄せ集めなどではなく,『金光明経』では様々な教義や儀礼に関する記述・情報を蒐集すること自体に意味があった.本稿では『金光明経』のうち「諸天薬叉護持品」(Yaksasraya-parivarta)に焦点を当て,引き続き<仮説>の検証を行った.その結果,「仏教の存続に危機意識を抱いた『金光明経』の制作者たちは,王族を民衆ともども仏教に誘引し,彼らから経済的支援を得てインド宗教界に踏みとどまるため,世間的利益の獲得を主題とする<五品>等を編纂していった.その際には従来の仏教では一般的ではなかった諸要素を次々と取り入れていったが,『金光明経』における衆生利益は,仏教の伝統に則り釈尊の成道・法身獲得と不可分に結びつけられていたため,従来の理解や文脈を破壊したり逸脱したりすることのないままに諸要素の導入に成功した.そこに,『金光明経』が編纂・増広過程や伝承過程を通じて,常に"仏典"であり続けることができた大きな要因の一つがあると考えられる.」という結論を得たことで,所期の目的を達成した.

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© 2010 日本印度学仏教学会
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