2016 年 64 巻 3 号 p. 1171-1177
<不退転法輪経><勝思惟梵天所問経><文殊仏国土功徳荘厳経><阿闍世王経>の4点の文殊系経典には,他仏国土における行よりもサハー(娑婆)世界における行の方が短期間でより多くの功徳を得ることができる,とする類型的記述が共有される.それらの構造について明らかにし,他の典籍における類例との比較を試みた.上述の類型的記述については,梶山氏が論じたところの,多くの大乗経典に確認できる「神変の記述」の一部分を形成している.一方,管見の限り,上記のような類型的記述は上掲の4経典に限られるようなので,これら文殊系経典4点はある程度関連があったと推測することができる.さらに,その類型的記述といくつかの共通点を有する記述が<法華経>と<維摩経>にも確認でき,先の類型的記述との比較を試みた.その結果,<法華経>に見るものが最も簡素で,そこに見られる要素は他の典籍にも共有されるので,これらの中ではもっとも原初的な形を残しているとみなせる.それに対して,文殊系経典4点における類型的記述は最もよく組織されたもので,もっとも発達したかたちを示している。一方,<維摩経>のものは<法華経>よりも発達した様相を示すが,文殊系経典のものとは違う構造を示すのでそれらとは別の系統に属していると見なせる.