2019 年 67 巻 3 号 p. 1143-1147
本論文は,シャーンティデーヴァが著したと伝えられるŚikṣāsamuccayaの第1章「布施波羅蜜章」の菩提心説に見られる菩薩乗と声聞乗の対比について議論するものである.インド・チベットの仏教では,シャーンティデーヴァの著作に説かれる願菩提心(bodhipraṇidhicitta,菩提を願う心)と行菩提心(bodhiprasthānacitta,菩提に向かって進む心)の二つの菩提心の区別がよく知られている.Śikṣāsamuccaya第1章に見られる菩提心の説明では,経典引用によってなされる二乗の対比をみることができる.これらの対比は,特に二種の菩提心の説明において,大乗の菩薩行の特質を明らかにし強調するためになされている.しかしながら,従来の研究ではこの点は指摘されてこなかった.そこで,本論文では,当該箇所に説かれる菩提心説を概観しつつ,1)二乗の対比が見られる引用経典2)二乗の対比によって議論される思想内容3)二種の菩提心と二乗の対比との関係の3つに焦点を当てて分析を行った.