印度學佛教學研究
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Karmasiddhisaṃtatipariṇāmaviśeṣaに対するSumatiśīlaの解釈
Yong Tsun nyen
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2019 年 67 巻 3 号 p. 1154-1157

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抄録

Karmasiddhi(KS)は,世親(Vasubandhu)によって著された論書である.本発表で取り上げるKSの「[心の]流れの特殊な変化」(saṃtatipariṇāmaviśeṣa)の語は,先行するAbhidharmakośabhāṣya(AKBh)にも出るが,AKBhでは,それによって主に有部(Sarvāstivāda)の三世実有説を批判する.一方,KSでは,アーラヤ識(ālayavijñāna)説の中にその語があらわれる.AKBhにおける多くの概念が経量部(Sautrāntika)の思想を基盤とすることは多くの研究者によって認められている.しかし,同じ世親の著であるKSは瑜伽行派(Yogācāra)が伝えるアーラヤ識説を採用する.そのため,KSを著した時の世親をどの学派に属していたと考えるかについてはなお検討の余地がある.

KSの注釈書であるSumatiśīla(ca. 800 C.E.)著Karmasiddhiṭīkā(KSṬ)は,チベット訳のみ現存する.KSが瑜伽行派の論書に従っているというKSṬの記述は,これまでの研究では注目されていなかった.KSには,種子(bīja)から結果が生起する過程は,六識によってアーラヤ識が熏習されること(*paribhāvanā)で種子が増長され(*paripoṣaṇa),最終的に「[心の]流れの特殊な変化」によって結果が生起すると述べられている.KSṬでは,KSの「種子が増長する」という文を「存在する種子のみが成長する」と「種姓(gotra)に決定される」とによって解釈し,この解釈は,『唯識三十頌複注』(Triṃśikāṭīkā)および『摂大乗論』(*Mahāyānasaṃgraha)の注釈『分別秘義釈』(Vivṛtagūḍhārthapiṇḍavyākhyā)における瑜伽行派説のひとつと類似している.このことからも,KSṬはKSを瑜伽行派に従った論書と考えていたことが示唆される.

以上のように,KSの「[心の]流れの特殊な変化」についてKSṬが瑜伽行派の立場で解釈している可能性を示した.今後はKSとKSṬを詳細に比較検討していく必要であると思われる.

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© 2019 日本印度学仏教学会
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