印度學佛教學研究
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仏教論理学派の用いる錯誤知の喩例――その起源としての十喩――
小林 久泰
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キーワード: 十喩, illusion, yogācāra, madhyamaka
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2019 年 67 巻 3 号 p. 1158-1163

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抄録

大乗仏教では,伝統的にこの世界を夢幻の世界として捉え,それを眼病者が見る毛髪や二重の月などを例として説明してきた.後代に発展したインド仏教認識論においても,それは例外ではない.彼ら仏教論理学派の者たちは自らの教義的立場の正当性を証明する際,上記の毛髪や夢などを外界が実在しないことを証明する論証式の〈喩例〉として用いている.

大乗仏教において,空なるこの世界を夢などに例える傾向は般若経典に遡る.そして特に『大品系般若経』や『維摩経』などに見られる十種の喩え(十喩)は中国・日本の様々な文化に大きな影響を与えたものとして有名であると同時に,仏教論理学派にとっても重要な意味を持ってきた.

しかし,サンスクリット原典を見た場合,従来「十喩」として捉えられてきたものは,数の点でも,構成内容の点でも,漢訳とは大きく異なる.本稿では,おそらく,インドではこれらの喩例を10個のまとまりとして扱う伝統はなく,中国で漢訳された時にそのような傾向が出来上がったと考えられることを指摘した.

また,単一の喩例でも理解される内容を何故,十喩のように多くの喩例を用いて説明する必要があるのかという疑問に対する『大智度論』作者の回答を検討し,その理由が(1)大乗の教えの扱う範囲の広さと(2)聞き手の能力に応じた説法の工夫の2つに起因するものであることを明らかにした.

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© 2019 日本印度学仏教学会
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