印度學佛教學研究
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Dīpaṃkaraśrījñānaに帰せられる13のマントラの流儀について
望月 海慧
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2020 年 68 巻 3 号 p. 1248-1256

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抄録

DīpaṃkaraśrījñānaのMantrārthāvatāra (P. 4856)の表紙には「Dīpaṃkaraの13のマントラの流儀に入る」とあり,また,Citāvidhi (P. 4868)の奥書には,「Dīpaṃkaraのマントラの流儀は13である.すべてがあるならば,珍しい.13は,マントラの意味に入ることと,灌頂と,三摩耶の秘密と,天宮の布施と,水供養と,護摩と,天供養と,寿成就と,死を欺くことと,命終の論書と,荼毘護摩と,七句と,小像の設置との13である」と述べられている.この両者の記述は,彼に帰せられるマントラの流儀として13の文献があったことを伝えている.この13の著作は,テンギュルの北京版の目録では,最初のMantrārthāvatāraに続く, Sekopadeśa (P. No. 4857),Samayagupti (P. No. 4858),Saudadāna (P. No. 4859),Peyotkṣepavidhi (P. No. 4860),Homavidhi (P. No. 4861),Devapūjakrama (P. No. 4862),Āyūḥsādana (P. No. 4863),Mṛtyuvañcana (P. No. 4864),Mumūrṣuśāstra (P. No. 4865),Śmahoma (P. No. 4866),Saptaparvavidhi (P. No. 4867)と最後のCitāvidhiである.すなわち,前述の引用は,これらの13文献の表紙と奥書と理解することができ,テンギュルに編入される以前にこれら文献が「Dīpaṃkaraの13のマントラの流儀」として伝承されていたことが確認できる.これらの文献のうち,最初のものは,真言乗に入る意味をまとめたものであり,続く12文献は実際に行う儀軌を説いたものである.その儀軌も,前半の6文献は一般的儀軌をまとめたものであり,後半の6文献は死と再生に関する儀軌をまとめたものである.前半は,灌頂,三摩耶,曼荼羅供養,撒水,護摩,供養からなり,後半へ前行となっている.

これらの13文献はその著作スタイルが統一されておらず,すべての文献に注釈者による注記が付されている.そのことから,この13のマントラの流儀は,Dīpaṃkaraśrījñānaが意図して編纂したものではなく,チベットにおいて後代の者がこれらの13文献をマントラの流儀としてまとめたものと考えられる.またこれら13の文献には,注記が付されていない版が存在しないことから,彼の他の著作とは異なる伝承を有していたと考えられる.

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