印度學佛教學研究
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マドゥスーダナ・サラスヴァティーのbhakti文献におけるśraddhā
眞鍋 智裕
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2021 年 69 巻 3 号 p. 1013-1018

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抄録

アドヴァイタ・ヴェーダーンタ学派の学匠マドゥスーダナ・サラスヴァティー(ca. 16th–17th C. CE)は,アドヴァイタ教学に基づいてバクティ思想の救済理論を本格的に確立した人物とされている.彼は,聖典Bhāgavatapurāṇa(BhP)に依拠して,Bhaktirasāyana(BhR)とその自註Bhaktirasāyanaṭīkā(BhRṬ)やBhPの冒頭三詩節に対する註釈*Śrīmadbhāgavataprathamaskandhādyapadyatrayavyā­khyā(ŚBhPĀTV)を著し,また聖典Bhagavadgītā(BhG)に対して浩瀚な註釈Bhagavadgītāgūḍhārthadīpikā(BhGGAD)を著している.彼はこれらの著作において彼のバクティ論を展開しているが,BhR(Ṭ)とŚBhPĀTVにおける彼のバクティ論とBhGGADにおけるバクティ論には以下のような違いが見られる.即ち,BhPに依拠するBhR(Ṭ)とŚBhPĀTVにおける彼のバクティ論では,バクティは独立の救済手段であり,またその有資格者は全ての生類とされている.一方BhGに依拠するBhGGADでは,バクティは知に従属するものであって独立した救済手段と見做されていない.また,その有資格者は実質遊行者であるバラモンに限定されている.このように,BhR(Ṭ),ŚBhPĀTVとBhGGADにおいては,マドゥスーダナのバクティへの態度に違いが見られる.彼のこのバクティへの態度の違いは,śraddhā(信頼)の理解の違いにも関係していると考えられる.そこで本稿では,BhR(Ṭ)とBhGGADにおいてśraddhāがどのように異なっているのかを確認し,その違いがBhR(Ṭ)とBhGGADにおける彼のバクティへの態度の違いに結びついていることを明らかにした.BhGGADにおけるśra­ddhāの対象は,解脱の手段である梵我一如の知が説かれているヴェーダーンタの文であるため,バクティはその知に従属していると理解される.一方,BhR(Ṭ)ではバクティそのものが目的とされているため,その手段であり,śraddhāの対象でもあるバーガヴァタの諸規範の遂行というバクティは,知に従属しない独立したものであると理解される.このように,両著作におけるマドゥスーダナのśraddhā理解の相違は,両著作における彼のバクティへの態度の違いと密接に結びついている.

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