印度學佛教學研究
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叙事詩とプラーナ文献におけるヴィシュヌの顕現・化身の列挙
大木 舞
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2022 年 70 巻 3 号 p. 1049-1052

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抄録

 本稿は,叙事詩とプラーナ文献において,ヒンドゥー教の一神格であるヴィシュヌの顕現・化身(prādurbhāva-, avatāra-)の組み合わせ,すなわち列挙された顕現・化身の変遷を追うことを目的とする.先行研究では,叙事詩ではHarivaṃśaRāmāyaṇaが重点的に取り扱われ,プラーナ文献ではVāyupurāṇa等とBhāgavatapurāṇaが少々取り上げられたのみであった.そこで,叙事詩Mahābhārataを含め,初期の化身の列挙の形成過程を追い直すと共に,Vāyupurāṇa等に加えてプラーナ文献の中で古層に属すMārkandeyapurāṇaViṣṇupurāṇaなどを扱い,ヴィシュヌの化身の列挙がどのように発展していったかという点に焦点を当て検討を行った.元来Padmanābhaや猪や人獅子や小人などを神であるViṣṇuの過去の諸行為として言及するのみであったが,Kr̥ṣṇaに対する信仰を通じた化身思想の萌芽という思想的転換点を経て,神的なものに限らず,人間をもViṣṇuの化身として列挙するようになった.二世紀から三世紀頃にかけて叙事詩文献において,猪,人獅子,AditiとKaśyapaの息子,Paraśurāma,Rāma,Kr̥ṣṇaなどを含んでいた化身の列挙は,四世紀から六世紀頃にかけてプラーナ文献においても引き続きParaśurāmaやRāmaといった人間の化身を多く列挙し,遂には仏教の尊格であるBuddhaをも含むに至った.

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© 2022 日本印度学仏教学会
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