印度學佛教學研究
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一切経音義の「小字双行」について
李 乃琦
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2022 年 70 巻 3 号 p. 1228-1233

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抄録

 一切経音義は現存する最古の仏典音義であり,唐代の僧侶である玄応が660年頃に編纂したものである.500部弱の経典が収録されており,当時の経典の実態を知る重要な資料とも言える.一切経音義は漢訳仏典とともに,日本に伝来し,盛んに書写されている.日本で書写された最古の記録は729年であり,現在10種類以上の日本古写本が残されている.

 一切経音義は書写の時代・地域によって,書写形式も異なっている.大きく2種類に分けられる.即ち一行の大文字で書写されたものと,二行に分けて小文字で書写されたものである.しかしながら,筆者の調査によると,一切経音義日本古写本の中に,一つの項目の前半部は大文字で書写されているが,後半部は二行に分けて小文字で書かれている特殊の書式が存する.通常,写本の書写時に,空白スペースが足りない場合,二行の小文字を使うのは少なくない.但し,一切経音義の場合は,スペースが十分あるのに,小文字に変更された.本論文では,一切経音義で一つの項目の前半部は大文字で,後半部は二行の小文字で書写されたものを研究対象とする.これらの内容を「小字双行」と呼ぶ.

 現時点で,10種類の一切経音義日本古写本と版本の高麗本を調べた結果,「小字双行」は一切経音義で複数例が見出される.本論文では,これらの項目について,各写本を「大文字/小文字」,「空白スペースの有無」,「小文字の内容」の三つの要素を精査した.その結果に基づき,各写本の特徴,関係,伝播の経緯を検討した.さらに,それらの例が生じた理由を解明するために,さまざまな可能性を検討し,考察した.写本の伝播と書写は宗派の知識集団との関わりもあることが見て取れた.

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© 2022 日本印度学仏教学会
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