印度學佛教學研究
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聖地における祖霊祭の規則の発展――Tristhalīsetuと他文献の検討から――
虫賀 幹華
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2023 年 71 巻 3 号 p. 948-952

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抄録

 本論文は,ヒンドゥーの聖地で執行される祖霊祭(祖先祭祀)の規則の発展について,16世紀後半に北インドのバナーラスでミーマーンサー学派の議論に精通するナーラーヤナ・バッタによって書かれたTristhalīsetu(TSS)を中心に考察するものである.同文献の総論で聖地での祖霊祭は重要な主題として7章を割いて扱われ,その中でも詳細に検討にされるのが,Devīpurāṇaからの引用とされる詩節群の解釈である.この詩節群は,聖地に関する最初のDharmanibandhaであるTīrthavivecanakāṇḍa(12世紀)をはじめ聖地関連文献で引用されており,15世紀のミティラーで書かれたTīrthacintāmaṇi(TC)では引用だけでなく解釈に関する議論もなされている.本論文では,引用詩節のうち特に詳しく検討される「聖地での祖霊祭における勧請の禁則の適用」について,TSSがTCを参照しながらそれと異なる意見をどのように述べているかに注目して,両者の議論の内容を要約した上でTSSの記述の特徴を指摘する.TSS総論の一部のみの検討であるため最終的な結論は別稿に譲るが,TCに比してTSSは,実際に聖地で祖霊祭を執行する人々が直面するようなさまざまな問題について,当時の実践形式への配慮なのか比較的緩い規則を採用し,それを正統化するためにミーマーンサーの議論を利用していることがうかがえる.TSS執筆の事情として,聖地での実践を正統派のものとして説明しようとするDharmanibandhaにおける聖地での祖霊祭に関する議論の重要性と,アクバル統治下のバナーラスというバラモン知識人が共同体を作り,宗教関連の論争に回答するのに重用されていたという時代背景についても言及する.

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© 2023 日本印度学仏教学会
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