2024 年 72 巻 3 号 p. 969-972
Kāṭhaka-Sam̐hitā(KS)は,古代インドの祭式に関する最古の議論や記述を収める黒Yajurveda-Sam̐hitāの1つであり,ekādaśinīと呼ばれる儀礼の説明を含んでいる.ekādaśinī儀礼は,11匹の犠牲動物からなる動物犠牲祭の一種である.ekādaśinī(「11で構成される」)儀礼の記述は,KS 33–34,つまりsattra章の中の,1年間からなるsattraの締めくくりに行われるdvādaśāha(「12日間」)儀礼の記述の中に位置している.ekādaśinīは,KSのdvādaśāhaの最初の11日間に行われていた.その直後に,動物犠牲を行ったことに対する贖罪儀礼として,Tvaṣṭar神のための動物犠牲祭が述べられる.それはdvādaśāha儀礼の12日目にTvaṣṭar神のための動物犠牲祭が行われていたことを示している.その後に,食人行為や人間犠牲と思われる記述が続く.そして,これらの記述の解釈に資する記述がMaitrāyaṇī Sam̐hitā(MS)4.8.1 pātnīvata tvāṣṭra paśu(「妻を伴ったTvaṣṭarへの動物犠牲祭」)においてみられる.すなわち,祭式においてManuの妻が犠牲として捧げられる代わりに,Tvaṣṭar神への犠牲動物が捧げられる話が述べられている.このような,人間を犠牲として捧げる代わりにTvaṣṭr̥神に動物を犠牲として捧げるという観念が当該箇所にも適用されるならば,KSのsattra章においてTvaṣṭar神への動物犠牲は人間犠牲の代替行為であると推測される.