我々は病に対して,最初は少しでも早くその状態から逃れることを目指す.しかしそれが不可能となった場合は,何を思うだろうか.逃れようのない絶望や不安に襲われ,人生の災難として捉えてしまうかもしれない.
ヴィクトール・E・フランクル(1993)は生きる意味と価値について「生きるとは,問われていること,答えること――自分自身の人生に責任を持つことである.」と説いている.筆者は患者との日々の対話の中で,「なぜ病気にならなければならないのか」という問いそのものの視点が変化するとき,すなわちフランクルのいう実存的転換が生まれる瞬間を患者といっしょに体験している.実存的転換とは,“病と闘う”から“病とともに生きる”という態度変容であり,それは病に新たな意味“苦悩から生みだされる希望”を加える力となってくれる.