2022 年 20 巻 1 号 p. 53-67
私がここで試みるのは,フランクルとフロムとの対話を想像することである.実際には両者は対話を行っていない.しかし,両者は有意義な対話を生む十分な理由を持つ.二人は同時代のユダヤ人であり,反ナチスの勇敢な闘士であり,それぞれの仕方でフロイトの精神分析学から「実存的精神分析」を生みだそうとした思想家であった.二人は,人間が抱く根本的な欲求はリビドーではなく,自分の人生を有意義な人生として実現しようとする「意味への欲求」であると考えた.フランクルは言う.「人生が君に投げかける問いに一つ一つ真摯に応えようとする営為が君に人生の意味を発見させるだろう」と.フロムは言う.「責任感とは,《自分には応答する力がある,だから応答する,応答したい》という自発的意識にほかならない」と.そして,フロムは指摘した.生き生きした豊かな応答関係の再生,これこそ今日の精神的課題である,と.