サルトジェネシス(健康創成論)の考え方は,全人的医療の理解・実践のうえでは必須であると考える.サルトジェネシスをどのようにして臨床や医学教育に生かしていくか,線維筋痛症の痛み医療の現場から考えてみたい.
サルトジェネシスは,イスラエルの健康社会学者であったAaron Antonovskyによって提唱された近代的な健康に関する概念である.
著者は,医学教育において,1)大学医学部1,2年生を対象とした東洋医学概論で,サルトジェネシスが従来のパソジェネシス(病因追究論)と健康に関する概念とどのように異なっているのか講義している.2)卒後の初期研修医を対象とした実践漢方講座では,サルトジェネシス的方法論を代表する伝統的東洋医学(特に漢方医学)の痛み医療への応用について教育を行っている.3)麻酔科専門医を対象としたペインクリニック(疼痛外来)においては,痛み医療の実臨床の現場から具体的方法論として「パソジェネシスとサルトジェネシス」の実践に関する教育を行っている.実際には医学方法論の適応と限界を考慮しながら,従来のパソジェネシス単独では問題解決に至らないようなケースに,患者固有の資源を見出し,それを活性化して問題解決に導いていくというサルトジェネシス的方法論を用いる.最終的には,身体・心理・社会・実存的医療モデルに立脚した「全人的医療」を実践できる医療者育成を目指す.