画像電子学会誌
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論文
両眼視モデルによる視方向錯視現象のシミュレーション
伊奈 諭田畑 孝一
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2002 年 31 巻 4 号 p. 575-583

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抄録
両眼視による外界の見え方を客観的に明らかにするために,両眼視のシミュレーションモデルを構築し,代表的な視方向錯視現象への適用実験を行った.モデル構築にあたり,?両眼の幾何学的構造,眼球のレンズ特性および網膜感度特性を模倣できること,?両眼視点の位置はまず両眼の中点(サイクロープスの眼)の位置を基準に決定されること,?両眼からの各入力画像は脳内においても(トポロジー的に)保存されるため注視点を基準に重ね合わされ最終的に一つの画像として統合知覚されること,の三つの仮定を用いた.これにより両眼視点の一意的な決定の下に,被写界深度による遠近ボケや両眼による複視を伴った視覚現象を客観的に再現可視化できるようになった.また視覚心理学の分野でよく知られた四つの視方向錯視現象に本システムを適用した結果,“Wells-Heringの視方向の法則”に基づく心理物理実験の報告を満足する結果が得られた.本システムは上記の三つの仮定を実装したのみの単純な光学ベースのモデルである.こうした単純な光学的モデルではとても再現説明できないような両眼視錯視現象も無数に存在するものと予想される一方で,このような単純なモデルでも再現説明ができる錯視現象も確かに存在することを明示できた.このように,計算機シミュレーションの利点は,視器官による光学的な現象と脳機能(脳神経)の上位計算理論モデルの関与によって発現すると予想されるような現象とを分離独立して客観的な結果として個別提示できることにある.最後に,実験結果を基にして,提示した両眼視モデルの位置付けと限界および上位認知機構との関係,計算機シミュレーションの意義,今後の発展課題などについて議論を行った.
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© 2002 一般社団法人 画像電子学会
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