抄録
視覚心理学,視覚物理学においてよく知られた両眼視の錯視現象として主観的階段錯視がある.これは格子状のドットパターンを前後に傾けて水平方向から両眼視観察すると階段状の3D構造が出現する現象である.心理物理学分野では,この現象を引き起こす基本的な仮説として両眼網膜対応における「近接要素融合規則」が唱えられてきたが,明確な証拠はなかった.そこで本研究では,人間の視覚を模擬して客観的に表現できる両眼網膜像計算モデルの構築と計算機実験をとおして以下の検証を行った.
(1)両眼の網膜像のみの基本情報から階段錯視が発生するかどうかの検証
(2)近接要素融合規則(Nearest Neighbour Rule)が本当に正しく働くかどうかの検証
(2)について,両眼網膜像計算モデルを構築するにはより具体的かつ詳細な規則表現が必要であり,新たに「近接要素融合計算規則」として定式化を行った.結果,両眼の網膜像の幾何学的な構造を明らかにするとともに,格子状ドットパターンの両眼網膜像のみを手掛かりにして階段錯視現象が発生することを検証した.