抄録
本稿では「混合診療禁止ルール」を,効率性および公平性の観点から分析することを通じて,日本の医療保険制度を包括的に考察する。日本を取り巻く社会経済環境が激変する中,混合診療禁止ルールの弊害が指摘されてきた。混合診療をはじめ,日本の医療保障に求められているのは,患者のニーズにいかに応えるかという視点と,保険財政の逼迫に応じた医療資源の効率的配分の視点であろう。そのうえで,公平性はこれらと整合的に担保されるべきである。そこでまず本稿では,余剰分析を通じて混合診療禁止ルールの効率性および公平性を検討する。結果としてこの制度は効率性はおろか,その大義名分である公平性の担保に関してさえ疑わしいということが明らかになる。次に公平性の考察を一層深めるべく,患者のニーズや効率的な医療資源の配分といった視点を考慮した,新しい公平性概念を提供するものとしてRonald Dworkinの正議論をとりあげる。これに範を取り,現状を概観する過程で,混合診療に関連して,公的保険の守備範囲のあり方や,公的保険と私的保険の役割分担のあり方など,日本の医療制度における多くの問題に逢着する。結論として我々は,公的医療保険のみですべての医療需要に対応するという従来の路線を転換し,公私の役割分担を明確にした上で,公的保険でカバーできない部分は,混合診療をより柔軟に認め,その費用は私的保険で各自賄うといった,混合保険の導入を念頭におく新しい医療保険体制を提言する。