抄録
本論文はリアルオプションのアプローチを用い,医薬品企業の臨床開発プロジェクトの投資問題を扱う。特に,新薬開発プロジェクトの最大の特徴は,プロジェクトが失敗する可能性があるという技術的な不確実性を伴った多段階で逐次的なプロジェクトであるので,この点をモデル化することを試みる。また,医薬品企業は競合他社の参入,政府による薬価低下政策などの外生的な要因で収益が下落するリスクを抱えているので,新薬の価値がポアソンジャンプを伴う拡散過程に従うものとし,この点もモデル化する。
分析の結果,以下の知見を得た。第一に,外生的なイベントの発生確率あるいはジャンプの幅が大きくなると,投資の臨界値が大きくなり,企業は新薬の価値の水準が十分に大きくなるまで投資を延期すべきであることが明らかになった。第二に技術の不確実性が大きい時,すなわち,プロジェクトの失敗確率が高いときは新薬の価値を下落させるので投資オプションの価値を下落させる事が明らかになった。最後に本論文のモデルによって3段階の臨床開発プロジェクトの各段階を開始する時点で,投資オプションの価値と最適投資の臨界値を評価することができるようになった。