抄録
本稿では,介護分野でもっとも先進的な実践を行ってきた広島県尾道市の取り組み(いわゆる「尾道方式」)についての客観的記述を試みた。
「尾道方式」の特徴の一つは,関係者が「できる限りすべての要介護高齢者ケースに対しケアカンファレンスを開催する」という共通認識を持っている点であった。共通認識をもつ理由は,「ケアカンファレンスは高齢者ケア(医療を含む)に必要」との理解が行き渡っていたからである。尾道方式のもう一つの特徴として,在宅主治医が(必要なら入院中の病院主治医も)ケアカンファレンスに参加する率の高さを指摘できる。本来,主治医はケアマネジャーに患者に関する情報提供などで協力するだけではなく,ケアカンファレンスに参加することが求められるはずであるが,全国的にはそうなってはいない。尾道では主治医の出席を促すため,主治医が参加しやすいケアカンファレンスの開催形態が工夫されていた。
ケアカンファレンスに対する共通認識を作り上げる過程では,そのための研修会が繰り返し実施され,医師をはじめ多職種の参加が図られた。研修会に多職種が参加するための仕掛けは以下の通りであった。もともと尾道では1992年設置の救急蘇生委員会の頃から,地域の高齢化率が近い将来に25%に達することに対する問題意識・危機感が存在していた。そうした問題意識を関係者間で共有するために,およそ10年間で60回に及ぶ高齢者医療福祉問題講演会など勉強会・講演会・セミナーが開催されてきた。こうした努力の積み重ねを経て,上記のケアカンファレンス研修会にも多くの参加者を得ることができたと考えられる。
ケアマネジャーの育成とケアマネジメントの研修会は,尾道市医師会ケアマネジメント・センターが中心となり,尾道市医師会本体,同医師会立高齢者介護4施設,行政,他職種との委員会や協議会がシステムとして支えていた。その結果,ケアカンファレンス実施率が90%を超えるという,他の地域には見られない高率を実現するに至った。
さらに尾道方式は,日本の介護の新しい展開の方向として期待されている地域包括ケア(「新・地域ケア」)へと進化しつつあった。