抄録
本調査研究では,諸外国で行われた遡及的診療記録レビューによる有害事象の把握調査の手法に則り,訴訟件数が多い産科領域に焦点をあて,医療の質保証の観点から,有害事象の性質,頻度を明らかにすることを目的とした。
本研究で把握する有害事象は,「患者への意図せぬ傷害(injury)や合併症で,一時的または恒久的な障害(disability)を生じ,疾病の経過でなく医療との因果関係が認められるもの」と定義した。対象は,産科を診療科にもつ13病院(特定機能病院3病院と,その他の10病院)において,2002年度に退院した入院患者(精神科を除く)の診療記録各250冊を無作為抽出した中から,産科症例313例を調査対象とした。レビュー方法は2段階方式から成り,はじめに,有害事象の可能性のある症例をスクリーニングするための18の基準に基づいて看護師が調査し,次に,18の基準に該当した診療記録について複数の医師が有害事象の判定を行った。
遡及的診療記録レビューの結果,産科の有害事象の発生率は2.9%であった。本調査研究で把握された産科の有害事象の特徴としては,予防可能性が低く,もしくは予防は実際上困難という事例が殆どであった。しかし,「産科出血に対する対応の遅れ」といったような予防可能性が高い有害事象も認められ,このような事象に対しては予防対策を講じていくことが重要であると思われた。