2007 年 17 巻 3 号 p. 271-283
近年,医療現場がさまざまな課題・問題に直面していることは周知のとおりである。その課題・問題とは,医師・看護師不足,医師・看護師の過労死,医療訴訟の急増化,リスク増大など,枚挙に暇がない。これらの課題・問題は単なる一過性のものなどではなく,現場で働く者たちの負担を増大させることによって,医療現場にさらなる課題・問題を生み出すという負のスパイラルをもたらすものである。
本稿では,このような認識のもと,この負のスパイラルを脱する方法として,医療現場にトヨタ方式を導入した刈谷豊田総合病院の事例を紹介している。トヨタ方式を導入して医療経営からムダを取り除くことで,医師や看護師をはじめとした医療従事者の負担を減らし,彼(女)たちがより重要な仕事,より遣り甲斐のある仕事へと時間を割くことができるようになる。
刈谷豊田総合病院の事例から理解されることは,医療現場にトヨタ方式を導入する際には,少なくとも3つの条件が挙げられるということである。それは第一に,業務の中に存在するムダを取り除くための「コストマネジメント」である。第二に,業務を大雑把な塊として眺めるのではなく,一連の作業プロセスを構成する要素を調査・分析する「プロセスマネジメント」である。第三に,現場作業者が主体的にムダを見つけ,そのムダを取り除くための改善案を考えるという「現場主導の作業改善」である。