医療と社会
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特集論文
フィリピン共和国の保健医療事情と医療保険システム
河原 和夫
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2008 年 18 巻 1 号 p. 189-204

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抄録

 フィリピンでは医療制度改革が進められているが,その中で地域保健・予防活動が行われるとともに国民皆保険制度の確立を目指して公的医療保険制度であるPhilHealthを拡充していくことが政策目標となっている。人口は高齢者層が少ない若い国である。感染症による死亡や罹患状況は大きく改善し,上位の死因は今や生活習慣病と感染症が並存する構造となっている。また,感染症が改善したことによりそれが主因となる乳児死亡も改善してきている。一方で今後高齢化が進展し生活習慣病の比重も高まっていくものと考えられる。
 PhilHealthは,受容可能な負担額で適切な医療上の利益を享受できるような体制を提供することであり,国民皆保険を目指すとともに医療の質の向上を図ることを目的としている。給付は原則として外来はカバーされておらず入院を対象としている。しかし入院給付内容や給付期間の短さなどの問題を有している。また,貧困層に対するプログラムが設けられ地方政府と中央政府がPhilHealthに登録されている貧困層のために保険料の支払いを行っている。
 PhilHealthは感染症等の短期疾患に対応するものであり,今後ますます進行する高齢化に伴う生活習慣病罹患者の増大には現在の給付内容ではこれら疾患には対処できないものと思われる。また,国民の約3分の1を占める貧困層の医療給付をどのように考えていくか,そして財源の安定的確保などの問題を有しており,今後解決していかねばならない課題は山積している。

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© 2008 公益財団法人 医療科学研究所
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