医療と社会
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特集論文
日本の医療保険制度の歩みとその今日的課題
井伊 雅子
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2008 年 18 巻 1 号 p. 205-218

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抄録

 第2次世界大戦後,多くの途上国は先進国型の医療・保健システムを導入しようとした。しかしその対象は主に都市部に限られ,人口の多くを占める農村のための医療は軽視されてきた。日本では1961年に国民皆保険が達成されたが,1922年に制定された健康保険法に次ぎ1938年に国民健康保険法が成立し,戦前に農村を含む医療保険制度の骨格が形成された。インフォーマルセクターが相対的に多い経済構造の中でどのようにしてその取り組みを行い,社会保険を構築してきたのか,その歴史的な経緯を考察することは,現在公的医療保険制度の設立に取り組んでいる途上国への重要な示唆となる。
 この小論では,明治の近代産業の勃興とともに大きな問題となった労働者保護のために始まった工場法,本格的な社会立法である健康保険法,戦時体制の中で急速に整えられた国民健康保険法などを紹介しながら,1961年の皆保険制度への布石を分析する。また,皆保険達成後の日本の医療保険制度について,国民健康保険の問題(経済構造の変化や高齢化といった社会状況の変化に対応していないために引き起こされた制度疲労,場当たり的な制度変更の積み重ねによる制度の複雑化と責任所在の不明化),公平な制度と言われる中で比較的議論されることの少ない負担の不公平の問題,高齢者医療保険制度への対応,保険者の役割という4つの視点から考察する。

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© 2008 公益財団法人 医療科学研究所
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