医療と社会
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特集論文
中国 動き出した保健医療制度改革
―包含的制度構築に向けて―
内村 弘子
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2008 年 18 巻 1 号 p. 73-94

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抄録

 中国政府は,保健分野の改革に漸くその重い腰を上げつつある。本稿は,制度再構築また保健格差是正という観点から,中国の保健医療制度改革の方向性と政府の役割を分析し,今後の課題について考察した。中国の保健格差については,人々の経済水準などの需要側の要因,医療保険制度という制度的要因,そして保健サービスの提供体制を支える各地方の財政力という供給側の要因があげられる。現在の中国の医療保険は,戸籍制度に基づき,農村人口と都市人口で大きく制度が異なっている。加えて,市や県によってそれぞれ制度が修正される。このような制度設計・運用は,現存する保健格差を制度として固定化する懸念がある。さらに,人の移動によって変化しない戸籍制度に基づく制度区分は,国内人口移動が活発化する現在,医療保険制度を形骸化する恐れがある。中央から地方(省)への財政移転は,近年,地方間の財政力格差を是正する方向にある。しかし,その是正効果は,各地方の保健サービスの提供体制格差の改善にはつながっていない。このような状況のもと,地方間の独自財政収入の大きな格差が各地方の保健サービス提供体制を左右していることが示唆される。包含的な保健医療制度の構築には,医療保険プログラム間の調和または保険のポータビリティの改善,そして地方間の保健サービス提供体制の格差是正に向けた,地方と中央の政府間財政関係の設計の見直しが重要な課題としてあげられる。さらに保健分野全体を視野に入れると,基礎的医療サービスと末端医療機関立て直しへの財政資金の増加が求められる。

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© 2008 公益財団法人 医療科学研究所
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