抄録
1992年から訪問看護に従事し,在宅看取りに数多く関わったことから,在宅看取りの実現を推進するには,①住民の意識改革(病院信仰からの脱却)②医療者の意識改革(在宅は無理だと医療者自身の固定概念の打破)③地域の医療連携体制の確立④地域の介護体制の充実⑤予防から看取りまでを包括的に捉えられる行政の体制整備といったことが重要ではないかと実感するに至った。
このことを裏付ける事例を,若いがん患者の在宅看取り例,一人暮らしの高齢肺がん患者,重装備にならない超高齢事例,胃ろうでも経口摂取にこだわって見送られた事例と4例提示し,在宅看取りのプロセスを振り返った。
これらの事例の中で,ことに老衰と呼ばれる経過を振り返ると,フレイル(虚弱状態)の考え方にも言及でき,残される家族も納得のいく見送り方ができるためのヒントが示される。また,在宅看取りの経験知は,自宅以外の生活の場での看取りの推進にも参考となる。
できるだけ住み慣れた地域で暮らし続けることを支援するには,地域包括ケアが実際に稼働する地域をつくることが必要であり,そのための窓口としての予防活動も含む「暮らしの保健室」は前述した①②③を実践しつつ④⑤へも働きかける機関として発展してきた。
地域包括ケアの推進は,高齢者のみならず,すべての生きづらさを抱えた人々にとっても必要とされることであり,直面している高齢者施策にとどまらない地域づくりへと繋がることが期待される。