医療と社会
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特別寄稿
患者-医師間コミュニケーション研究に見る「患者中心の医療」という概念の進化
石川 ひろの
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2021 年 30 巻 4 号 p. 447-458

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抄録

この数十年間,「患者中心」という概念は,医療コミュニケーション研究において多くの研究者の注目を集めてきた。にもかかわらず,その概念は定義や測定方法が統一されていないことがしばしば批判されてきた。本論文では,機能主義,コンフリクト理論,功利主義,社会構築主義の4つの社会学の理論的視点に基づいて,患者-医師間コミュニケーションに関する研究が,患者中心的コミュニケーションをどのように概念化し,測定してきたかをレビューした。それぞれの理論的視点によって,患者-医師関係の前提,期待される役割,コミュニケーションの目標は異なる捉え方をされていた。これが,先行研究においてたびたび指摘されてきた患者中心的コミュニケーションに関する概念的および操作的な定義の混乱の一因であると考えられる。本研究は,患者中心的コミュニケーションのさまざまなモデルと,各モデルで期待される役割と目標についての概観を示した。患者中心的コミュニケーションの重要な特徴は,患者の希望や状況に合わせて患者-医師間のコミュニケーションモデルを調整することであるとされる。本研究で示した枠組みは,その患者や文脈に即したコミュニケーションモデルを特定し,既存の患者中心的コミュニケーションの尺度を理論的に再構築することにつながる可能性がある。また,患者中心的コミュニケーションは,これまで主に患者中心のケアを実現するための医師側の行動として定義されてきたが,その実現に向けては患者との協働が重要であり,今後の研究,臨床において着目していく必要がある。

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© 2021 公益財団法人 医療科学研究所
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