2022 年 32 巻 1 号 p. 51-58
感染症発生時には疫学的・臨床的対応の観点から臨床情報の収集が必要である。2009年の新型インフルエンザ発生時の英国のthe first few hundred(FF100)研究や,COVID-19発生時の武漢からの99例報告は世界中の多くの論文で引用された。これらの事実は,新興感染症発生早期の臨床情報が極めて貴重であり,世界中で速やかに共有されるべきことを示している。COVID-19の流行初期には,日本においてはこのような臨床情報の迅速な収集と共有が上手く行かず,患者からの検体を研究機関や企業への提供が遅れた。これらは本邦でのCOVID-19対応における公衆衛生対策,臨床上の対応,そして研究開発の観点で大きな足枷となった。今後は感染症指定医療機関の研究能力の強化,研究環境の改善,特に電子カルテ等の病院内情報システムの情報の積極的疫学調査,戦略的な知見の共有体制の構築,日本発の医学誌を介した情報発信,行政検査だけではなく医療機関・研究機関・民間での微生物の検出体制およびゲノム解析の体制を充実させるなどの対策が必要である。