医療と社会
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32 巻, 1 号
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巻頭言
特集論文
新型コロナウイルス感染症:対策の課題と今後の展望
  • 岡部 信彦, 武藤 香織
    2022 年 32 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー
  • 大野 元裕
    2022 年 32 巻 1 号 p. 9-20
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    ワクチンがない,知見がない中,医療資源の乏しい埼玉県のCOVID-19対策は,狭義の意味での医療行為・体制にとどまらず,政府や市町村との関係,県民並びに事業者の社会・経済活動,広報と県民の理解,法や規則との整合性や矛盾といった幅広い課題に対する戦略的・戦術的対処を必要とした。

    中でも,知見が集積される中で,陽性者の多寡に関わらず,戦略目標を高齢者福祉施設での感染防止等,脆弱な層への対処に転換させ,県庁ワンチームでこの戦略目標実現の戦術構築に資源を集中させた。その際には,県専門家会合の助言により医療機関への負担を優先的な基準とした。また,経済・社会活動と感染防止対策のバランスが常に課題となったが,早い時期に産官学金労の会議体を設け,幾度かに亘り実践的な提言を取りまとめ実行した。

    ワクチン接種の拡大や抗体カクテル療法の効果は明白で,積極的に支援・対応に努めてきたが,新たな変異株や感染拡大に準備するための対応を継続的に進める必要がある。またその際には,首都圏知事間で連携を図ってきた。

    政府や市町村との意思疎通には反省点はあるものの,ワクチン接種では市町村に一定の支援を行った。政府の資源配分には課題が残る一方で,公的病院における優先入院や療養施設への入所勧告など法律改正が待たれる。

  • 基礎自治体の果たす役割
    吉住 健一
    2022 年 32 巻 1 号 p. 21-35
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    感染症流行時における自治体の初期の役割は感染予防の呼びかけとなる。但し,感染症の種類が危険なものである,又は非常に感染力が強いと分かった場合には,自治体は感染拡大防止のために住民等に行動抑制を要請することになる。

    住民に効果的な協力をしてもらうためには,自治体と住民の関係が良好である必要がある。良好な関係を作るためには,情報の共有と相互理解が前提となり,行政は明確な目標を持った方針の説明をしなくてはならない。また,感染拡大している時に,住民の暮らしを守ることが必要である。

    新型コロナウイルス感染症を収束させる取り組みは,感染拡大防止が目的であり,感染者や感染者が所属する店舗の摘発が目的ではないことを理解することが大切である。

    新型コロナウイルス感染症の収束に向けた有効な対策の一つとして期待された新型コロナワクチンは,人類が初めて接種するタイプのワクチンで不安に思う人も多かったが,効果が理解されると接種希望者が増えた。自治体は,ワクチン接種を希望する人にできるだけ早く接種をする努力をした。また,自治体は,希望しない人にワクチン接種の有用性を伝えることにも努力をした。

    感染防止に協力的な人とそうではない人の対立を防ぐこと,感染者の人権を守る代わりに感染拡大防止に協力してもらうことは,未知のウイルスと人類の戦いをするうえで重要ことであると考えている。

  • 佐藤 大作
    2022 年 32 巻 1 号 p. 37-49
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    PMDAでは,COVID-19関連の診断・治療・予防を目的とした様々な製品の審査を行っていたほか,開発早期からの企業・アカデミアからの相談に対応するなど,製品開発にも積極的に対応してきた。緊急事態下においても,様々な制約の中でリモート化などの工夫をしながら業務に遅れが出ないよう対応し,米国で2020年5月1日に緊急許可制度(EUA)で流通開始された治療薬「レムデシビル」が日本でも5月7日に特例承認された。また,医療現場での不足やニーズに対応した人工呼吸器の審査や,PCRの検査態勢の充実に対応するべく,PCR検査キット等の審査が進んでいった。また,PMDAは海外規制当局とも連携し,ワクチン評価の考え方を2020年9月2日に公表し,外国開発のワクチンの国内治験を含む国内申請準備が進んだ。米国で緊急許可されたファイザー社のワクチンの申請が2020年12月になされ,2021年2月14日に特例承認され,供給され,その後も5月に2つのワクチンが承認された。ワクチン発売後からの膨大な副反応疑い報告の受付も対応している。また,アビガン錠200mgの適応拡大の審査は,「単盲検試験」結果の臨床的意義が論点となり,2020年12月に継続審議となった。

  • 大曲 貴夫
    2022 年 32 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    感染症発生時には疫学的・臨床的対応の観点から臨床情報の収集が必要である。2009年の新型インフルエンザ発生時の英国のthe first few hundred(FF100)研究や,COVID-19発生時の武漢からの99例報告は世界中の多くの論文で引用された。これらの事実は,新興感染症発生早期の臨床情報が極めて貴重であり,世界中で速やかに共有されるべきことを示している。COVID-19の流行初期には,日本においてはこのような臨床情報の迅速な収集と共有が上手く行かず,患者からの検体を研究機関や企業への提供が遅れた。これらは本邦でのCOVID-19対応における公衆衛生対策,臨床上の対応,そして研究開発の観点で大きな足枷となった。今後は感染症指定医療機関の研究能力の強化,研究環境の改善,特に電子カルテ等の病院内情報システムの情報の積極的疫学調査,戦略的な知見の共有体制の構築,日本発の医学誌を介した情報発信,行政検査だけではなく医療機関・研究機関・民間での微生物の検出体制およびゲノム解析の体制を充実させるなどの対策が必要である。

  • 感染症数理モデルの実際と活用と課題について,数式を一切使わない論考
    古瀬 祐気
    2022 年 32 巻 1 号 p. 59-70
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症のパンデミックは,その理解や流行制御のために数理モデルがリアルタイムで幅広く用いられた初めての機会であったと言える。数理モデルによる予測には,感染者数の推移パターンを記述する統計モデルと,感染が拡大するメカニズムを内包したSIRモデルがある。これらのモデルを用いて,本感染症の基本的な性質の解明,過去の状況や対策の評価,実社会と流行動態の関係の理解,未来の予測を行うことができる。予測に関しては,プロジェクション・シナリオ分析・予報など様々な目的に対して数理モデルが利用された。一方で,その理解や活用において,政治行政・専門家・市民それぞれに課題があり,その最たるものはコミュニケーションであった。今後,感染症に限らず多彩な場面で数理モデルが使われるようになると思われる。これからは,専門家だけでなく皆が数理モデルの性質や限界を正しく理解していくことが重要であり,その上で互いの立場や価値観の相違も踏まえた建設的な議論が求められる。

  • 田中 幹人, 石橋 真帆, 于 海春, 林 東佑, 楊 鯤昊, 関谷 直也, 鳥海 不二夫, 吉田 光男
    2022 年 32 巻 1 号 p. 71-82
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    新興感染症であるCOVID-19に対処する中では,日々更新されるリスク知識を社会で共有し,また政策から個々人のレベルに至るまでリスクを判断していく必要があった。このリスク情報の流通と議論の場となってきたのは,もちろんメディアである。本稿では,我々の研究結果を基に,まず情報の送り手である新聞報道の傾向を振り返り,また情報の受け手である日本のメディア聴衆の相対的リスク観を把握する。そのうえで,ソーシャルメディアを含むオンラインメディア上でのコミュニケーションの成功例,失敗例を確認し,そこから教訓を得る。更にマス/オンラインメディアが複雑に絡み合う中で,COVID-19禍を通じて明らかになった感染者差別,ナショナリズム,懐疑論や隠謀論といった問題を確認したうえで,コミュニューション研究の知見を踏まえて,リスクのより良い社会共有に向けた方針を提示することを目指す。COVID-19という災害は,新興感染症として私達の医療・社会制度の刷新を求めているのみならず,コミュニケーションを通じたリスク対応のあり方についても大きな変革を求めているのである。

  • 武藤 香織
    2022 年 32 巻 1 号 p. 83-93
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,筆者が加わっていた政府の助言組織での経験を基に,COVID-19に関連する差別的言動を抑止するための政府の取組の全体像を振り返り,今後の課題を述べることである。2020年2月に設置された新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による差別防止の呼びかけ後,政府対策本部が制定した「新型コロナウイルス感染症に関する基本的対処方針」では啓発の必要性が盛り込まれた。その後,2020年9月から11月まで,新型コロナウイルス感染症対策分科会の下に「偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」が活動し,議論のとりまとめを公表した。WGで認定した差別的言動の態様は,①医療機関・介護施設やその従事者,家族等への差別的な言動,②学校や学校関係者等への差別的な言動,③勤務先に関連する差別的な言動,④インターネットやSNS上での差別的な言動,⑤職業・国籍を理由にした誹謗中傷,県外居住者や県外ナンバー所有者への差別的な言動等,⑥個人に関連する情報を含む詳細な報道の6つに分けられた。更に,WGからは,施策の法的位置付けを要請した。その後,2021年2月,新型インフル特措法が改正され,差別的取扱い等の防止に関する国及び地方公共団体の責務が追記された。ただし,本格的な人権擁護法制の改善に至らなかった点,WGの再開催がなされていない点,感染者に関する情報の公表とその報道を巡る論点解決の見通しが立っていない点などが課題である。

研究ノート
  • ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会における議論の分析から
    由井 秀樹, 山縣 然太朗
    2022 年 32 巻 1 号 p. 95-107
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    [早期公開] 公開日: 2022/03/10
    ジャーナル フリー

    日本ではヒト胎児組織を用いる医学研究の実施条件について明確な取り決めが存在しない。2000年代に厚生科学審議会の「ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会」(専門委員会)は,臨床研究に限定する形で「死亡胎児」の研究利用の条件を議論していたが,結局,この問題は棚上げにされた。本研究は,将来の倫理指針の策定に資する知見を創出することを意図し,専門委員会の議論を総括・検討することを目的として設定し,論点を整理した上で議事録の分析を行った。

    結果は以下の通りである。ヒト胎児組織を用いる医学研究の問題は,ヒト幹細胞を用いた臨床研究の枠組みだけで処理できないほどに,あまりにも多様な論点を含んでいた。順を追って決着をつけなければならなかった,のみならず,専門委員会の場で議論すべきかどうか取捨選択が必要であった多様な論点の一つ一つについて,専門委員会は先送りを重ね,ついに収拾がつかなくなり,「死亡胎児」の問題それ自体を先送りせざるを得なかった。

    近年,感染症研究の文脈で研究素材としての胎児組織の有用性が認識されており,そこにCOVID-19の世界的流行が重なっている。こうした状況だからこそ,胎児組織の乱用を防ぐための取り決めが求められるといえ,倫理指針の目的と照らし合わせながら論点を取捨選択しつつ,順を追って論点の一つ一つに決着をつけることが重要になる。

  • DPC/PDPS病院へのアンケート調査から
    阪口 博政, 渡邊 亮, 荒井 耕
    2022 年 32 巻 1 号 p. 109-121
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    [早期公開] 公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー

    近年,組織の中長期にわたる戦略立案や組織全体のオペレーションの最適化のニーズから,医療機関においても経営企画部門の設置が進んでいる。経営企画部門は海外の会計組織(コントローラー)が日本に伝播する過程で設けられた組織体であり,十分な研究蓄積があるとはいえない。そこで本研究で,医療機関の経営企画部門の業務内容について注目し,どのような機能を担っているかを明らかにすることを目的とする。2018年度DPC/PDPS対象病院である1,730病院を対象として,2018年6~7月に郵送質問票調査を実施し,159病院(回答率9.2%)から回答を得て,そのうち有効回答157病院(有効回答率9.1%)を分析対象とした。結果として,主成分分析より6成分が医療機関の経営企画部門の業務傾向として抽出され,クラスター分析から2群に分類された。この点から,日常のオペレーションの管理は共通した働きであるものの,主たる業務である投資計画検討について関与している機関/していない機関に分離していることが確認された。

  • 50代時点の収入と結婚問題に注目して
    周 燕飛
    2022 年 32 巻 1 号 p. 123-133
    発行日: 2022/04/28
    公開日: 2022/05/26
    [早期公開] 公開日: 2022/04/06
    ジャーナル フリー

    30代,40代という比較的若い年齢層の介護者が,近年,増加している。一方,仕事や家庭生活において,人生の多くの岐路に立たされる大事な時期も,まさに30代,40代である。こうした若年期・壮年期の介護発生は,介護者本人のキャリア形成や,結婚行動に不利な影響を及ぼす可能性がある。本稿は,こうした懸念が現実に起きているかどうかを検証すべく,自分の父母・祖父母の介護経験を持つ男女の調査データを用いて,30代,40代の介護発生と,50代時点での就業収入や結婚確率との関連性について調べた。

    多変量解析の結果,女性における若年期・壮年期の介護発生は,結婚確率を低下(結婚難化)させることが確認された。具体的には,40代で介護者となった女性の結婚確率は,それ以外の女性に比べて10.7%ポイント低く,30代で介護者となった女性に至っては26.3%ポイントも低くなる。一方で,男性の介護者は,壮年期の介護発生が50代時点での年収低下につながっている。すなわち,壮年期(40代)に介護を開始した男性の就業年収は,それ以外の男性に比べて40万円低く,介護が壮年期男性のキャリア形成に不利な影響を与えた可能性が高い。

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