医療と社会
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高齢者のターミナルケアと政策選択 QOLの向上と自己決定の課題と展望
高木 安雄
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2001 年 10 巻 4 号 p. 25-40

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抄録

高齢者医療制度の創設を患者の立場から考えるひとつの論点として,高齢者のターミナルケアについてこれまでの取り組みと医療費に及ぼす影響などを考察した。日本で報990年代以降,終末期ケアでのホスピスなどが導入されつつあるが,国民の間に定着したものとはいいがたく,緩和ケア=ホスピスを選択する一般国民の意識は医師・看護職より低い。そして,診療報酬による「緩和ケア病棟入院料」「在宅末期総合診療料」などの経済的誘導も,がん患者や在宅高齢者の増加に対して大きな影響をもつものとはなっていないことも指摘した。
また,医療費に占める終末期医療の比重は,それほど大きなものではないことを強調して,高齢者のQOLの向上とそのための適正な資源配分が重要であることを明らかにしている。そして,今後の課題について,(1)高齢者のターミナルケアは,現実の混迷と高齢者の意思がなかなか確認できないこともあって,極端な議論に走りやすく慎重な議論が必要である。(2)ターミナルケアよりも社会的入院を含んだ高齢者の長期療養による医療費増加が問題なのであり,長期療養における高齢者ケアのあり方,そして資源配分=診療報酬支払い方法の見直しが優先されるべきであり,夕一ミナルケアの議論はその次になされるべき課題である。(3)高齢者医療制度は長い人生を生きた高齢者の多様な健康感・死生観にどう答えていくのかという課題を抱えており,画一的・平等というこれまでの制度構築の発想では対応できず,困難な課題解決を迫られている。

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