医療と社会
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医薬品の価格規制と需要の再検討
循環器官用薬の実証研究
姉川 知史
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2002 年 11 巻 3 号 p. 1-18

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抄録
医療保険における診療報酬制度の一環として薬価基準制度がある。日本の薬価基準制度では1980年以来,銘柄別薬価と,納入価格の実勢価格を薬価として反映させる薬価低下政策によって運営されてきた。本稿では医薬品需要の決定要因を姉川(1999a) を拡張した手法により, 1980年代以降の代表的な循環器官用薬をサンプルとして分析した。需要量決定に関して薬価,納入価格,その他の要因を推計した。このときデータのパネル構造を利用して,医薬品の個別属性が需要に与える影響を個別効果(individual effect)として間接的に推定した。この結果,次のことが判明した。第1に,需要量の納入価格に対する弾力性は負の値であり,-0.98から-1.20と予想されたよりも弾力的なことである。とりわけ発売後経過年数が12年を過ぎた「ジェネリック製品の導入された医薬品」,「ジェネリック製品との競争の大きな医薬品」ではこれが絶対値で1.0を上回り弾力的であった。第2に,医薬品の需要量の変動は価格変数以外の変数である個別効果によって説明される部分が大きいことである。とりわけ「ジェネリック競争の無い医薬品」では個別効果の影響が大きい。また,「ジェネリック競争の有る医薬品」の個別効果は小さいと考えられたが,発売後経過年数が10から18年くらいまでの間はそれが逆に上昇する傾向が示された。薬価制度改革ではジェネリック競争の有無を区別した政策を用いることが望ましい。「ジェネリック競争の無い医薬品」については依然として薬価の高低が需要量の重要な決定要因である。「ジェネリック競争の有る医薬品」については先発品の個別効果を抑制することが,後発品の需要量増大につながる。研究開発の促進という観点からは一定の需要と売上額を確保することが必要である。画期的な医薬品については納入価格が低下しない方法,あるいは上昇することをも許容する政策が必要である。
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